歯科衛生士として、患者さんとのコミュニケーションは避けて通れません。しかし、説明不足や誤解からクレームに発展することも…。
私は以前働いていた医院で、院長からクレーム対応を一任されるほどの「クレーム処理担当」でした。
クレームが発生したらまず私に報告が来る形で、院長が出てくることはほとんどありませんでした(報告はしていましたが、解決は私の役割でした)。クレーム処理は大変でしたが、クレーム対応をきっかけにファンになってくれる患者さんが続出したんです。
「怒っていた患者さんが、最終的には私を指名してくれる」
その経験を通じて分かったのは、クレームはうまく対処すれば信頼を得るチャンスになるということです!
そんな私が培ったクレームを未然に防ぐコツ、クレームが起きた時の具体的な対処法を、実体験を交えながらお伝えしますね。ピンチをチャンスに変えるコミュニケーション術を身につけましょう!
クレームは「説明不足」で起こる!
まず知っておいてほしいのが、クレームの多くは患者さんの想像と現実のギャップから生まれるということ。
治療中の痛み、治療の工程、費用、治療期間など…歯科衛生士には当たり前になっていることでも、患者さんにとっては未知の世界。その意識の差が生む説明不足から、患者さんの不安を増幅させてしまい、クレームにつながることが多いです。
初診時の説明不足による誤解と不安
初診時は、患者さんが最も不安を感じやすいタイミング。初めての医院であれば特に、「何をされるのか分からない」という不安は大きいですよね。
医院によって診療のルールや流れが異なるため、事前の説明を怠ると誤解を生むこともあります。
たとえば、「初診当日は応急処置のみ」と決まっている医院で、「痛みがあるから予約を取ったのに、応急処置だけで終わった」と怒った患者さんがいました。これは「初診時は応急処置のみ」というルールが患者さんに伝わっていなかったために起こったギャップです。
「今日、治療が受けられる」と思っていたのに、応急処置のみで次回の予約が必要だと言われたことで、強い落胆を感じたんですね。患者さんが不満を感じたのは治療そのものではなく、「今日で治療が終わる」と期待していたのに終わらなかったという、想像と現実のギャップによるものでした。
治療中の説明不足による不安と不満
歯科衛生士になる前に、歯科医院に治療で行った記憶って、ありますか?その時のことを思い起こしていただきたいのですが…歯科医院って、医院によってやり方や方針がいろいろですよね?
私は、子どもの頃と、高校生の時の通院の記憶があります。子どもの頃の歯科医院は、あの当時珍しく説明がちゃんとある歯科医院だったと思います。スタッフさんが可愛くてお話するのが楽しかったのを今でも覚えています。高校生の時は別の歯科医院だったのですが…逆に、説明がほぼなかったんです。なので、どんな順番で何をされるかまったくわからず、ただ口を開けて待っているしかできなかったことを覚えています。でも、ちゃんと説明してくださいなんて当時は言えなかったし、「説明なく治療するのが普通なのかな?」と不安を抱えたまま通院していました。
治療中、横になって口を開けている患者さんは、圧倒的に無防備な状態です。医院によっては顔にタオルをかけるところもあり、見えないことの不安も受けやすいでしょう。何をされるのか分からない…という状況は、患者さんにとって非常にストレスフル。歯科衛生士にとっては治療の流れが当たり前になっているため、いちいち説明する必要性を感じなくなることもあります。しかし、何もわからない患者さんにとっては、不安でいっぱいかもしれません。その不安な気持ちを汲むことができていないと、クレームにつながることがあります。
痛みを伴う処置への配慮不足
たとえば転んだ時に、痛くて泣くという大人は少ないですよね。それは「痛みの程度」をイメージできるからだと私は思っています。逆に小さな子どもは、転ぶと痛くて泣いてしまいますが、それを噛み砕くと…「転ぶのがこんなに痛いと思っていなかった」ことによるギャップ、ではないでしょうか。転ぶ経験を繰り返したり、怪我が増えてくると、泣く子も減っていきます。泣かなくなる理由は、「転ぶと痛いんだ」と認識できるようになるからです。
これを歯科治療で考えてみると…皆さんは、治療がどのくらい痛いのかイメージできるでしょうか?できる人は少ないと思います。なぜか…それは、口の中は見えないからです。人間が得る情報のうち、視覚から得ている情報量は8割以上と言われています。患者側では口の中が見えないため、痛みがいつくるのかわからず不安になります。歯科衛生士であっても、患者側になると、同じですよね。
私が先日ホワイトニングを受けた時のこと。痛みはないだろうと思っていたので、途中で少し歯がしみただけで驚いてしまいました。想像と違っていた時のほうが痛みは感じやすいんです。これもギャップですね。
歯の痛みは、イメージしにくいです。だからこそ、「痛みがあるかもしれない」と事前に説明して知っておいてもらわなければなりません。「痛み」に関しては、特に慎重になる必要があります。
クレームを未然に防ぐためのコミュニケーション術
患者さんの理想と現実とのギャップによって生まれるクレームは、事前のコミュニケーションで未然に防ぐことができます。
クレームを未然に防ぐためには、事前説明の徹底、傾聴スキル、そして誠実な対応が欠かせません。患者さんの満足度は、治療そのものよりも「どのように対応されたか」で大きく変わります。
事前説明の徹底でギャップを埋める
「痛みがあるなら先に言ってほしかった」というクレームを受けたことがあります。患者さんが痛みを予想していなかったために、「こんなに痛いとは思わなかった」とショックを受け不満を感じたのです。この場合は「痛み」そのものよりも、事前説明がなかったことが不信感の原因でした。
事前説明を徹底する際のポイントは、患者さんは歯科治療の初心者であると理解することです。
例えば、「今日は歯石を取りますが、途中で少し冷たい風を当てることがあります。もししみるようでしたら教えてくださいね」と治療の工程をステップごとに伝えるだけで、患者さんは「次に何をされるのか」を予測でき、不安が和らぎます。
また、痛みが出そうな箇所がある場合は「もし痛かったら遠慮なく教えてくださいね」とあらかじめ伝えておくことで、患者さんは「痛いかも」と身構えた状態になってくれます。そうすると、痛みを感じなかった場合には「思ったより痛くなかった」「上手だったんだな」とポジティブに受け取ってくれます。さらに、治療後にも「痛くなかったですか?」と確認することで、患者さんは「痛みを気にしてくれている」「安心できた」と感じ、クレームの発生を防げます。
初診時に治療希望の患者さんへの説明
私が以前勤めていた医院が「初診時は口腔内の検査と応急処置のみ」のルールで、そこでクレームにつながりやすかったんですが、患者さんにこのように説明をするようにしました。
「初診当日に治療を行うと、症状の原因を十分に確認せずに進めてしまう可能性があります。その結果、予後が悪くなることもあるため、まずは痛みを抑える応急処置を行い、後日しっかり治療を進めていきます」
最初にこういった説明をすることで、患者さんの納得感が高まり、クレームはかなり減りました。初診の予約確認時に電話やメールで「初診時は応急処置のみになる可能性があります」と一言添えるだけでも、患者さんの期待値を調整でき、想像と現実のギャップを埋めることができます。
診療の最初と最後にできる説明
たとえば、診療の最初に「今日は歯石を取るだけなので痛みはないと思いますが、もし痛かったら遠慮なく教えてください」と伝え、終了後には「今日は予定通り歯石を取りました。他に気になるところはありませんか?」と確認する。これだけで、患者さんの不安はかなり払拭されます。診療の最初と最後に、何をするのか説明し、何をしたのかを報告するのは、患者さんへの気遣いであり、信頼感を築くための重要なポイントです。
傾聴スキルを磨く
クレームを未然に防ぐためには、傾聴スキルを磨くことが欠かせません。患者さんは、「自分の話を聞いてほしい」「不安を理解してほしい」と思っていますが、それをうまく言葉にできないことが多くあります。特に、「痛い」「怖い」と感じた場合、その感情がうまく言語化できず、「感じの悪いスタッフだ」「雑に扱われた」という印象に繋がってしまうことがあります。
私が勤務していた医院では、患者さんごとにカウンセリングを行い、今までの歯医者での嫌だった経験や不安なことを丁寧に聴く時間を設けていました。この「話を聞いてくれる」「受け止めてくれる」という体験が、患者さんに安心感を与え、信頼関係を築くことに繋がっていました。
実際に、カウンセリングを担当した後に指名を受けることが多く、傾聴スキルの重要さを痛感しました。「話しやすい」「話を聞いてくれる」「嫌だったことが明確になりわかってくれた」と、患者さんの心が動くからだと思います。
具体的な方法としては、オウム返しで相手の言葉を繰り返し、共感を示すことが有効です。例えば、「痛かったんですね、それは怖かったですね」と、患者さんの感情を言葉にして返すことで、患者さんは「分かってもらえた」と感じ、心が軽くなります。また、頷きや相槌を適度に入れることで、「あなたの話をきちんと聞いています」という姿勢を示すことができ、信頼感が生まれます。
誠実な対応で信頼を得る
クレームを防ぐために最も重要なのは、患者さんに対して誠実であることです。これは単に、丁寧に接するという意味ではありません。誠実な対応とは、「相手の立場になって考え、相手が安心できるように行動すること」。つまり、常に患者さんの気持ちに寄り添い、「自分が患者だったらどう感じるか?」を意識した対応をすることです。
- 分かりやすい言葉で正確に伝える
- 表情や反応を観察し気遣う
- 言いにくいことも正直に伝える
「分かりやすく、正確に伝える」こと
まずは「理解しやすい言葉で正確に伝える」ことが、誠実な対応の第一歩です。
例えば治療の説明をする際に専門用語を使うと、患者さんには伝わりにくいです。「この部分のエナメル質が欠損しているので…」ではなく、「歯の表面の硬い部分が少し削れているので…」と、患者さんがイメージしやすい言葉を使うことが大切です。また、「今日は歯石を取ります」とだけ伝えるのではなく、「今日は歯石を取りますが、途中で少し冷たい風が当たるかもしれません。もししみるようでしたら教えてくださいね」と、一歩踏み込んで説明すると、患者さんは安心しやすくなります。
誠実な対応=「患者さんが不安を感じる前に、理解しやすい言葉で説明すること」
これにより、「説明がなかった」「聞いていない」というクレームを未然に防げるのです。
患者さんの表情や反応を観察し、気遣う
誠実な対応とは、ただ話すだけではなく、相手の様子を見ながら「本当に伝わっているか」を確認することでもあります。患者さんは、「はい」と答えていても、実際には不安や疑問を抱えていることが多いです。そのため、言葉そのままを受け取るのでなく、表情や態度を観察し、しっかりと伝わっているかを確認することが大切です。
例えば治療の説明中に
- 少し不安そうな表情をした
- まばたきの回数が増えた
- 少し身を引くような動作をした
こんな様子が見られたら、「ここまでで何か気になることはありませんか?」など声をかけるのが誠実な対応です。
患者さんが「大丈夫です」と言ったときこそ、本当に大丈夫なのかを確認することが重要です。「痛みが強いときは手を上げてくださいね」と伝えることは多いと思いますが、実際に患者さんが手を上げなかったからといって、「痛くないんだな」と決めつけるのはNG。患者さんの表情がこわばっていないか、体が緊張していないかを確認し、「痛いですか?」「無理せず教えてくださいね」と優しく声をかけることで、「この人はちゃんと気にかけてくれている」と感じてもらえます。
誠実な対応=「患者さんの反応を見て、細かい気遣いをすること」
これにより、「冷たい対応だった」「雑に扱われた」と感じさせず、クレームの発生を防ぐことができます。
言いにくいことも正直に伝える
誠実な対応とは、患者さんにとって耳が痛いことでも、誤解を生まないよう正直に伝えることでもあります。「言ったらクレームになるかも…」と伝えずにいると、後になって「知らなかった」「そんなつもりじゃなかった」と、より大きなクレームに発展することがあります。
例えば、歯周病の患者さんに対して「歯ぐきが少し下がっていますね」と曖昧に伝えるのではなく、「今の状態を放置すると、歯が抜けてしまう可能性があります」と、リスクを正直に伝えることが大切です。ただし、厳しく伝えるだけでは不安をあおるだけ。「今からしっかりケアすれば防ぐことができます。一緒に治療を進めていきましょう」と解決策とセットで伝えると、患者さんは前向きに受け止めやすくなります。
また、治療費の説明をするときも「削ってみないと分かりません」と濁すのではなく、「虫歯が大きければ、被せ物になる可能性があります。その場合は〇〇円くらいかかります」と、先に情報を伝えておくことも大切です。
誠実な対応=言いにくいことも、正直に伝えること。
これにより、「ちゃんと教えてくれなかった」「そんなの聞いていない」というクレームを防ぐことができます。
クレームが発生した時の対処法
どんなに事前説明を徹底し、誠実な対応をしていても、クレームを完全になくすことは難しいです。しかし、クレームが発生した際に適切に対応することで、逆に信頼を得てファンになってくれるケースも多いです。
- 迅速な対応
- 話を聞く
- 無闇に謝らない
ポイントは、この3つです。クレームを「患者さんの本音を聞くチャンス」と捉え、誠実に対応することで、信頼関係を築くことができます。
まずはとにかく報告する
クレームが発生したらまず最初にすることは、すぐに報告し院内で共有することです。「自分のミスかもしれない」「院長に迷惑をかけたくない」という思いから、報告をためらってしまうスタッフも少なくありません。ですが実際は、報告を遅らせたことで事態が悪化し、さらに大きなクレームに発展してしまうことが多々あります。現場で早めに共有していれば、被害を最小限に抑えられるケースがほとんどなんです。
私が勤務していた医院では、クレームが発生したら、まずスタッフから私に相談が来て、私が院長に報告する流れでした。特に、「今はクレームになっていないけれど、不満を持っている様子があった」という段階で早めに報告してもらうことで、大きなトラブルに発展する前に対処できた例が多くありました。
クレームを報告する際のポイントは、正確に事実を伝えることです。患者さんの言葉をそのまま伝え、「〇〇さんがこう言っていた」という事実と、「(こういう背景があるので)私はこう感じています」という感情を切り分けて報告することで、院長や他のスタッフが正確な状況を把握できます。
また、自分で対処できないと判断した場合や、判断に迷う場合は、迷わず院長に相談することが重要です。例えば、被せ物が何度も割れてしまうというクレームの場合、原因が治療技術や素材にある可能性があるため、専門的な判断が必要です。このようなケースでは、患者さんの気持ちをヒアリングした上で、院長に介入してもらうことで、患者さんの不満をしっかり解消できます。
話を聞く
患者さんへのアプローチとしては、話を徹底的に聞くこと。患者さんは、「自分の気持ちを理解してほしい」と思っています。話を遮らずに最後まで聞くことで、「分かってもらえた」と感じ、不満が和らぐことが多いのです。患者さんの中のギャップを理解するためには、患者さんの本音を聞き出すことが重要です。
ある患者さんが「痛かった、下手だった」と不満を口にしたことがありました。最初は「痛かった」ことがクレームの原因だと思っていましたが、よくよく話を聞いてみると…「口をずっと開けっぱなしでつらかった」「クリーニングの工程が少なく感じた」という本音が出てきました。この場合、「痛い」というのは表面的な不満であり、やはり「配慮が足りなかった」「説明が不足していた」ことが根本的な原因だったのです。
患者さんの本音を引き出すためには、「オウム返し」。例えば…
- 「口を開けているのが辛かったんですね。長く感じましたか?」
- 「工程が少なく感じたんですね。いつもと違うと感じられたんですね」
このように、患者さんの感情を言葉にして返すことで、患者さんは「分かってもらえた」と感じ、さらに本音を話してくれるようになります。また、「他にも気になることはありませんか?」と優しく問いかけることで、言いにくかった本音を引き出すことができます。
話を聞く際に最も重要なのは、決して言い訳をしないことです。患者さんが話している間は、「はい」「そうだったんですね」と共感を示し、反論せずに最後まで聞きましょう。そうすることで、患者さんは「ちゃんと話を聞いてくれた」「理解してくれた」と安心します。クレームが発生した際には、とにかく話を聞くことに徹しましょう。
無闇に謝らない
話を聞きながら、無闇に謝らないことも大切です。患者さんが怒っているとつい謝りたくなりますが、謝罪をすると「ミスを認めた」と受け取られてしまう可能性があります。「とりあえず」で謝らず、慎重に言葉を選びましょう。
大事なのは、謝罪の言葉ではなく、「患者さんの気持ちを理解すること」です。
一方で、患者さんが不安を感じたこと、嫌な思いをしたことに対しては、共感や謝罪を示さなければなりません。謝罪するなら、ミスがあったことではなく、患者さんの気持ちに対してです。
患者さんが感じたことを変えることはできませんし、たとえクレームの原因が、医院側のルールでどうしようもないことだったとしても、それは患者さんには関係ないことです(法律や保険点数など変えられないことは別です)。不満を持っている人に、正論で伝えても響きません。むしろ「取り合ってもらえなかった」とさらに不満が募ったり、口コミに書かれてしまう可能性もあります。
「不安なお気持ちにさせてしまい、申し訳ありませんでした」と、患者さんの気持ちに対して謝罪することで、患者さんは「気持ちをわかってくれた」と感じ、心が和らぎます。
さらに、「言いにくいことを伝えてくださって、ありがとうございます」と感謝を伝えることで、患者さんは「言ってよかった」「分かってもらえた」と安心感を抱き、信頼へと繋がります。
クレーム対応の具体例
起きてしまったクレームが「解決できるものなのか」「未然に防げたものなのか」をしっかり振り返ることで、今後の対応をより良くしていくことができます。ここでは、私が実際に経験したクレームをピックアップします。「どう対応し、どんな結果になったのか」、皆さんの参考になれば嬉しいです。
ケース①:解決できなかったクレーム – 事前報告がなく、患者さんが帰ってしまった
初診カウンセリング中に患者さんが怒ってしまい、「患者さんが怒っている」と私に報告が上がりました。しかし、その時にはすでに患者さんは帰ってしまっており、治療費の未払いも発生していました。
患者さんの心理
患者さんが怒った原因は、カウンセリングでの説明内容が期待と違っていたことでした。初診時の流れや治療方針についての説明が不十分だったのか、それとも患者さんが期待していた診療内容とズレがあったのか――。どちらにせよ、その場で話を聞いていれば対応できたかもしれないのに、それができなかったために、不満が募ったまま帰られてしまいました。
対応と結果
このケースでは、すでに患者さんが帰ってしまっていたため直接話を聞くことができませんでした。その後、医院として患者さんに連絡を入れましたが、「もういいです」と言われ、再来院には繋がりませんでした。
学び・対策
この経験から痛感したのは、「すぐに報告し、早期対応すること」の重要さ。もしカウンセリング中に少しでも不穏な空気を感じたら、対応できるスタッフにすぐ報告し、できる限りその場で解決を図ることが大切です。インカムの活用も有効です。また、患者さんが帰ってしまった後でも、「そのままにせず、迅速にフォローする」ことも重要です。患者さんの不満が時間とともに大きくなる前に、医院側からアクションを起こすことで、関係修復の可能性が高まります。
ケース②:診療時間外に来られたときの対応
診療終了後、院内でセミナーの課題を行っていた際、看板を「診療時間外」にしていたにも関わらず、患者さんがドアを強くドンドンと叩くという出来事がありました。
患者さんの心理
患者さんにとっては、「医院にスタッフがいるなら診てもらえるかもしれない」という思いがあったのだと思います。しかし、医院側としては診療時間外であり、院長も不在でした。
対応と結果
まず、ドアを開けて、診療時間外であること、院長が不在であることを丁寧に伝えました。「今は診療ができないこと」のみを伝えるのではなく、「後日予約を取ることをおすすめします」とフォローを入れ、患者さんが不満を抱えたまま帰らないようにしました。さらに、院長にすぐ報告し、後日患者さんが予約した際にスムーズに話が伝わるよう、スタッフ間で情報を共有しました。結果として、患者さんは数日後に予約を取り、特に大きなクレームには発展しませんでした。
学び・対策
このケースでは、患者さんの「スタッフがいるなら診てもらえるかも」という期待を否定するのではなく、別の方法を提案することがポイントでした。「診療時間外です」と言うだけでは、「冷たく断られた」と感じる患者さんもいます。そのため、「今日は対応できませんが、〇〇日ならご案内できますよ」と代替案を提示することで、不満を和らげることができました。
ケース③:受付で「前回の人以外でお願いしたい」と言われた
受付時に、「前回の担当者以外でお願いしたい」と希望がありました。
患者さんの心理
このような申し出の背景には、前回の治療の際に「施術が合わなかった」「接し方が気になった」「痛みを感じた」など、何かしらの不満があった可能性が高いです。しかし、多くの患者さんは「なぜ担当を変えたいのか」理由をはっきり言わず、「何となく合わなかった」という感覚で変更を希望されます。
対応と結果
まず、患者さんの希望を尊重しながら、「もしよろしければ、前回どんな点が気になったのか教えていただけますか?」と質問しました。すると、「口を開けるのがつらかったのに途中で休憩がなかった」「説明が少なくて不安だった」という具体的な理由が出てきました。
そのため、今回は施術前に「つらかったらすぐにお知らせくださいね」「今日は〇〇の処置を行います」と声をかけ、患者さんの気になった点に注意しながら施術を行いました。その結果、退職するまで指名をもらえるほど信頼を得ることができました。
学び・対策
患者さんは、「クレームを言うのは悪いこと」と遠慮することが多いものです。「気になることがあれば教えてください」とこちらから積極的に聞く姿勢が大切です。問題点を聞き出し、改善を約束することで、むしろ患者さんとの関係が良好になるケースも多いです。
ケース④:電話で予約をキャンセルされたが、最終的に来院に繋げた
患者さんから「予約をキャンセルしたい」と電話があり、理由を尋ねると、「治療の流れがわからなくて不安になった」とのことでした。
対応と結果
まず、患者さんの不安を解消するため、カルテを確認しながら、治療の流れを丁寧に電話で説明しました。「電話だけでは伝わりにくいこともあるので、よろしければ、来院時に改めてしっかりご説明しますね」と伝えたところ、患者さんは納得し、予定通り来院してくれました。
学び・対策
歯科治療は流れがわかりにくいため、患者さんは「自分の治療がどう進むのか」を知りたがっていることが多いです。そのため、事前に説明をしっかり行い、不安を解消することがクレーム予防に繋がると実感しました。
まとめ:ピンチをチャンスに変えるコミュニケーション
歯科治療において、説明不足や配慮の足りなさのために患者さんは不安を感じ、「思っていたのと違う」という気持ちが不満へと変わり、クレームになります。
クレームを防ぐために最も必要なことは、事前説明の徹底と誠実なコミュニケーション。治療前に「今日は何をするのか」「どんなリスクがあるのか」「どのような流れで進むのか」をしっかり伝え、患者さんが安心できるようにすることが、クレームを未然に防ぐ第一歩です。また、「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれる」「何かあっても相談できる」という信頼感を与えることで、不安や不満が生まれにくくなります。
それでもクレームが発生してしまった場合は、焦らずにまずは話を聞くことが最優先。患者さんの言葉を遮らずに、感情に共感しながら傾聴することで、患者さんの気持ちは和らぎます。
適切な対応をすることで、患者さんの信頼を得ることができ、最終的には「この医院なら安心できる」「話を聞いてくれるから、また来よう」と感じてもらえるようになります。クレーム対応は、実はリピーターを増やすチャンスでもあるのです。
クレームを恐れるのではなく、「患者さんの本音を聞く機会」と捉え、誠実に対応することが大切です。患者さんの気持ちに寄り添い、「ここに来てよかった」と思ってもらえる対応を積み重ねていけば、医院の信頼度は確実に上がります!クレーム対応のスキルを磨き、ピンチをチャンスに変えるコミュニケーションを実践していきましょう。