クリニックにおけるスタッフの教育。クリニックによって理念や経営方針は違えど、スタッフのスキルの向上は避けては通れない課題だと思います。
しかし、日々の忙しい診療の中で、院長やチーフ歯科衛生士自らスタッフ教育を行い、院内のみで確立していくことは、なかなか難しいものです。
歯科業界では、「スタッフ教育の外注」が10年以上前から少しずつ増えてきています。院内セミナーのような形で、外部の講師を呼んでスタッフ教育をしているクリニックは結構あるんです。
今回は、院内でのスタッフ教育の外注について深掘りしていきます!
「一度は外部講師のセミナーを受けてみたい!」
「自分のクリニックにも必要かな?」
「チーフである私には、時間もないし、全てを教えるのには限界がある…」
と考えている方、ぜひ参考にしてみてください。
クリニックが教育を外注するメリット
教育を外部委託することのメリットは多いです。日々の診療や、院内での指導だけでは習得が難しいスキルもありますし、外部の第三者がクリニックに入ることで、さまざまな効果が期待できます!
専門的な教育を効率よく導入できる
クリニックの歯科衛生士は、単に臨床技術を磨くだけでなく、患者さんとのコミュニケーション能力やクレーム対応力を高めることなども求められます。これらのスキルは、現場経験だけでは十分に習得することが難しいもの。そこで、専門の外部講師を招くことで、必要な知識を効率よく学び、スキルを向上させることができるんです。専門スキルにはいろいろありますが、接遇マナー研修、カウンセリング研修、感染予防対策研修の3つをご紹介します。
接遇マナー研修
セミナーの要望で最も多いのが、これです。患者対応の基本から、患者さんとの距離感の取り方までを体系的に学びます。
現代は対話をしなくても、文字だけでコミュニケーションをとったり、調べ物をしたりもできる時代。以前より、「対面でのコミュニケーションが苦手」という人は増えているのかもしれません。実際にマナーセミナーの中で話を聞くと、患者さんに対して、どう接したらいいか、どう話したらいいかわからない歯科衛生士は多く存在すると感じます。診療で患者さんを目の前にした時に、初めて「何をしゃべったらいいんだろう」と恐怖に駆られた…なんていう新人さんの話も聞きます。電話対応に苦手意識を持つ人も本当に多いです。
セミナー受講後に、
- 「患者さんとどんな風に話せばいいかわからなかったけど、何となくわかった気がする」
- 「患者さんに拒否感なく話してもらえる方法がわかってよかった」
など前向きな感想をいただくことも多いです。患者さんとのコミュニケーションは、歯科治療の要。「コミュニケーションが苦手だから…」「話すの上手じゃないから…」と諦めるのはもったいないです!実際に患者さんと接する中で学んでいくのも大事ですが、基本を体系的に学んでおくことで、苦手意識を取り除くことができますよ。
カウンセリング研修
カウンセリングでは、治療方針をわかりやすく説明することで、患者さんの同意を得て、クリニック主体ではなく患者主体で治療を進めていくことができます。このカウンセリングの基本的な考え方を、歯科衛生士となった初期段階で習得していれば、どこのクリニックに行っても役立ち、活躍できると思います。新人歯科衛生士がまず受ける研修としてもおすすめですし、新人でなくてもカウンセリング力を向上させることで、リコール率の向上につなげることができますよ。
感染予防対策研修
感染対策においては、日々歯科材料も進化していく中で、最新の衛生基準に沿った正しい器具の管理・消毒方法を学ぶ必要があります。
クリニック開業時に、医療機器の導入にあわせて感染対策についても考えることと思います。しかし、一度構築すると、新たに対策方法を見直したり、新しい材料を検討したりするタイミングってなかなかないですよね。意外と、やらなくてもよいことをやっていたり、使う必要のない材料をわざわざ購入して使っていたりするクリニックもあるんです。感染対策についてしっかり学び直すことで、コストカットや業務の効率化も図れる可能性があります。
実際に感染予防のセミナーを行うと、「初めて正しいやり方を知りました」「うちのやり方、間違ってました」など、受講生から感想をいただくことが多いです。みなさん関心が高く、でもなかなかしっかり学ぶ機会のない、意外に穴場なテーマだと思っています!
院長・チーフ歯科衛生士の負担軽減
クリニックでは、院長が診療・経営・スタッフ管理を一手に担うことが多く、その上さらに教育に時間を割くとなると大変です。そのためチーフ歯科衛生士が担うことも多いですが、指導を院長がやったりチーフがやったりすると均一な教育ができず、混乱を招いたり、再教育の必要が出てきたりすることもあります。特に、新人スタッフが入るたびに一から指導するのは大きな負担となります。
外部委託を利用することで、新人教育に時間を取られず、院長やチーフ歯科衛生士は診療に集中することができます。また外部講師による教育では、すべてのスタッフに対して均一な指導が行えるため、バラ付きを防止し、教育の質も安定します。スタッフの質が安定していることは、ひいては院長・チーフ歯科衛生士の負担軽減にもつながります。
第三者視点での客観的評価が得られる
院内教育では、どうしても教育する側とされる側の関係性が影響してしまいがちです。
既存スタッフが講師となり新人スタッフへの教育を行う場合、その関係性から、指導に曖昧な部分が生まれてしまうことがあります。上下の関係性が明白すぎると、質問や意見もしにくいことがありますよね。「これは臨機応変に対応して」と言われたけれど、「結局こういう場合はどうしたらいいの?」と疑問が残るケースなど、多々あります。
また、スタッフを評価する必要がある場合、既存のスタッフだと無意識に感情が入ってしまい、一定の目線の評価ができないことも多いです。内部の人間が客観的にクリニック内を見るというのは、なかなか難しいですよね。
でも外部講師なら上下の関係性がないので、対等な立場で教育ができますし、スタッフの強みや弱みの把握が必要な場合も、第三者の視点で、個々のスキルを客観的に評価することができるんです。
外部講師がいると、指摘しにくいことも伝えやすい
たとえば院内での改善ポイントを明確にしたい時にも、外部講師のほうがやりやすいことがあります。スタッフ同士での話し合いだと様々な理由をつけて現状維持となるケースが多いんですが、外部講師が間に入ることで、指摘しづらい課題も伝えやすくなります。
以前私が外部講師として院内セミナーをした時、「私からは言いにくいから、sakuraさんから指摘してもらえませんか?」と事前の打ち合わせでお願いされたことがあります。クリニックの中で、どうしても指摘できない相手がいるのだとか。詳細を聞いてみると、それはチーフ歯科衛生士よりもベテランの歯科助手Aさん。今までのやり方とは違ったやり方を提案したかったようですが、Aさんが一番ベテランな上に年齢も一番上で、スタッフの誰も、やっていることに口出しができなかったそうです。
私は客観的にAさんのやり方を観察した上で、「もし可能だったら、◯◯◯のようにするともっと効果的だと思いますよ。Aさん、すでにとてもお上手でいらっしゃいますので」とお伝えしました。Aさん自身も、後輩スタッフに指摘されるより、第三者である私から言われたことで、受け入れることができたようでした。一見回りくどいようですが、外部の人間を入れることにはこんなメリットもあるんです。
外部講師が来ることで、スタッフの意識が上がる
個人的には、このメリットが一番効果が高いのではないかと思います!外部講師が来ることで、馴れ合いの防止になったり、「外部講師に自分はこう評価してもらえた」という自信につながったりして、個々のモチベーションに影響するんです!
実際、既存スタッフには気づかれていない部分を評価してもらえることは、大きな自信につながります。
以前私が講師で入ったクリニックで、ケア前に、歯ブラシや模型、フロス、歯間ブラシなどその患者さんに使うかどうかわからないものまで細かく準備されている歯科衛生士さんがいました。それを見て「◯◯さんは事前の準備が素晴らしいですね」と伝えたところ、他の歯科衛生士さんから「◯◯さん、そんなことまでやってるの?!」と驚かれた、ということがありました。他の歯科衛生士さんは自分の業務にいっぱいいっぱいで、そこまで見ていなかったんですね。事前準備をしっかりすることは、患者さんの満足度向上に結びつくことを伝えると、それが後にマニュアル化されました。
また、外部講師はいろいろなクリニックに出入りしていることが多いので、他のクリニックとの比較ができることも強みです。だからこそ個々のスキルだけでなく、クリニック全体を評価することができます。院長も他クリニックのやり方をじっくり見ることはなかなか難しいと思いますので、たとえば他のクリニックでは実施していない独自の取り組みなどを評価してもらえることは、相当の価値があると思います。
クリニックが教育を外注するデメリット
教育を外注することにはデメリットも存在しますので、お伝えしておきますね。
コスト負担がある
外部委託は高品質な教育を受けられる一方で、コストがかかるという課題もあります。相場としては、単発研修で1回あたり数万円〜数十万円。継続のプログラムだとしても年間継続で数十万以上となります。
特に規模の小さいクリニックでは、この負担が経営を圧迫する可能性もありますから、なかなか教育の外部委託に踏み切れない現実があるかもしれません。コストがかかっても長い目で見るとリターンがあると考えるか、経費削減のために教育は院内スタッフ教育でやるか…それは考え方次第だと思います。
クリニック独自の理念・文化を伝えにくい
クリニックごとに診療方針や患者対応に関する独自の理念があることも多いと思います。しかし、外部講師にこれらが十分に伝わっていないと、外部講師に来てもらうことで本来得られるはずのメリットが十分に吸収しきれない可能性もあります。
事前の打ち合わせで、クリニックの方針や理念を外部講師に丁寧に説明する必要がありますが、それが手間となっては元も子もないですよね。
また、現場特有の細かなルールややり方を外部講師が把握しきれないこともあります。現場を見てから教育に入ることも可能ですが、限られた時間の中で細かい作業内容まで把握することは難しいでしょう。
このような面から考えると、クリニックの独自性が強い場合はデメリットの方が大きく感じてしまうかもしれません。
継続的な教育を確保しづらい
一度の研修では知識やスキルの定着が難しく、外部講師の研修だけでは、アフターフォロー不足になる可能性があります。研修を受講している間は、目新しい情報からモチベーションもあがっていますが、ひとたび日常業務に戻ると忘れがちなのが現実です。研修後もクリニック内で日常的に振り返りを行わないと、せっかく学んだ内容が薄れていきます。
知識やスキルを定着させるには、継続的なフォローが必要となります。定期的にスタッフ同士で情報共有したり、自分の考えを発表しあったりすることで、情報が薄れてしまうことを防ぎましょう。
外部委託がオススメのクリニック!
最近はフリーランスの歯科衛生士も増えてきて、経験豊富な講師から充実した内容の研修を聞くことができます。メーカー主催などの大きな研修会では一人ずつ参加費がかかったり、研修会場に出向いたりと手間が増えてしまいますが、院内であれば外部講師が出張してきてくれるので、有効活用できるクリニックは多いと思います。
- 忙しくて院長やチーフ歯科衛生士が教育に時間を割けない場合
- スタッフの人数が多い場合
- 客観的な評価でスタッフを成長させたい場合
- スタッフの教育レベルの統一化を図りたい場合
特に忙しいクリニック、スタッフの人数が多いクリニックでは、有効活用できる可能性が高いです。
研修を行うためには、スタッフ全員の時間を確保する必要があります。もしクリニック内で行う場合、「◯曜日はBさんがお休みだし…」と個々の都合に対する配慮が必要となり、全員が受けるには複数回実施しなければならない場合もあります。しかし外部講師の場合は、「◯日の◯時に外部の講師が来るから、参加してください」と告知しておくと、お休みの日でも参加率は高くなるものなんです。
「スタッフの人数が多いと、全員の時間を確保するのは難しいのでは?」と思った方もいるかもしれませんが、「外部の先生が来るのはこの時間しかない!」という限定的な時間の活用方法になり、優先度が高くなるんです。
また、院内で行う場合は当日の時間の確保だけでなく、資料作成や台本作りなど事前準備にも多くの時間が必要になります。細かいことを言うと、その時間は給料が発生するのかなど…さまざまな問題が考えられます。外部委託だとそういった事前準備が必要ないため、忙しいクリニックには特におすすめなんです。
ほかにも、スタッフの教育レベルを一定にしたい場合にもおすすめです。クリニック内で「人事評価」を導入しているところはどのくらいあるでしょうか。診療で忙しいと、歯科衛生士一人一人のレベルややり方を確認することはなかなか難しいと思います。外部講師に研修をしてもらうことで、スタッフ全員の最低限のレベルが統一化されます。
また、スタッフの共通の知識として記憶に残るため、後日クリニックで課題が見つかった場合でも「あの外部講師の先生が言ってたよね!」とベテラン歯科衛生士も新人歯科衛生士も同じレベル感でディスカッションすることができ、クリニックとしても成長に繋がります!
外部委託するときはここに気をつけて!
では具体的に、どのように外部委託をすればいいのでしょうか。外部委託のステップを間違えてしまうと、効果が十分に受けられない可能性がありますので、確認しておきましょう。
- 目的と課題を明確に!
- 研修の内容と外部講師を決める
- 講師と打ち合わせをする
- 研修のスケジュールや計画を立てる
- 研修の実施とフィードバック
- 研修の効果確認と継続した改善
まずは、目的と課題、つまり外部講師に来てもらうことでどうなりたいのか、を明確にしましょう。例えば、
- 「接遇を強化したい」
- 「最新の医療技術を習得したい」
- 「SRPのスキル向上をしたい」
こういった具体的なニーズを洗い出します。これによって、研修の内容をどの方向で進めていくかが定まり、外部委託が合っているのかどうかも判断しやすくなります。
クリニックの問題点や課題を話し合うときには、できれば院長だけでなくチーフ歯科衛生士やそのほかのスタッフも参加すると、現場の声を反映した本当に必要な研修に結びつけることができます。外部委託は全てを任せるのではなく、クリニックにとって必要な分野に絞って依頼をすることで、効果的な教育につながります。
外部講師を決める時には、まず専門性と実績があるかどうかを確認しましょう。
歯科業界・医療業界に名の知れている講師なのか、研修プログラムは十分であるかなど事前に確認しておくとよいです。スケジュール調整や、研修後のフォローアップに関しても情報があると、依頼した後にもスムーズに研修を進めていくことができると思います。
できれば複数の外部講師を比較し、費用対効果を踏まえた上で最適な講師を決定しましょう!
最近ではSNSで外部講師を探しているというクリニックも増えてきました。以前はメーカーやディーラーに情報をもらったり、院長の知り合いに紹介してもらったりなどが多かったと思いますが、現在はネットで情報収集する方が効率的に外部講師を探すことができます。
外部講師が決まったら、事前に一度は打ち合わせをしておくことをオススメします。そのときに、クリニックの独自の理念や方針を共有したり、内容やスタッフの意見のすり合わせもしておくとよいでしょう。特に、なぜ今回外部講師に研修をお願いすることになったのかというクリニック側の経緯も外部講師に伝えておくと、研修内でよりリアルなエピソードも盛り込んでもらうことができますよ。
続いて、研修の詳細な計画にうつっていきます。具体的には実施日程や頻度、研修対象者などを決定していきます。院内の業務に支障をきたさないように、診療時間外の実施や段階的な導入を検討することが重要です。事前にスタッフと共有し、参加しやすい日程を選定しましょう。研修終了後に期待する成果についても明確にしておきましょう。目標を設定することで、研修後の評価もしやすくなります。
当日研修が終わったら、スタッフの感想も忘れずに聞いておきましょう。できるだけ研修直後の記憶の新しいうちに、アンケートのような形で実施することが望ましいです!感想が集まったら、学んだ内容が日常業務に活かせるかどうかを話し合いましょう。スタッフ同士で学びを共有することで、理解を深めることにも繋がります。
研修は終わったら終了ではありません。評価をして、次の研修の企画に活かしていくことをオススメします。研修後も継続的に評価・改善をし、外部委託と院内教育のバランスを図ることが大切です。
できれば外部講師との打ち合わせの時に、教育後のフォローアップについても相談しておくとよいと思います。ここのポイントをやらないクリニックも多いかと思いますが、かなりオススメです。外部講師本人に、この研修を受けるとどんなクリニックに成長できるか、その後どのようにモチベーションを維持していくとよいかを聞いてみましょう。外部講師は、何度も同じ研修をやってきている場合が多いので、アドバイスの一つとして聞いておくと、研修後もより有効的に活用できると思います。
まとめ
スタッフ研修の外注委託にはメリット・デメリットがあり、クリニックにとっての必要性を慎重に考えていくことが重要です。コストと効果を見極めて、価値のある研修かどうかを判断していきましょう。外部委託は負担軽減につながりやすいですが、院内教育とのバランスも考慮し、一番いい方法で導入を進めてほしいです。また今回は触れていませんが、近年はオンライン研修(e-ラーニング)も普及しています。時間とコストを抑えたい場合の選択肢として、検討してみてくださいね。
「セミナー講師」の仕事についてはこちらをご覧ください♪
