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高齢患者さんとの会話が苦手な歯科衛生士さんへ。信頼関係を築くための会話の工夫やヒント

高齢の患者さんとの会話に、戸惑ったことはありませんか?

うまく言葉が届かなかったり、反応が思ったように返ってこなかったり…歯科衛生士として「どう接するのが正解なんだろう…」と悩む場面が多いものです。

私自身、これまで訪問歯科にも関わってきた経験の中で、高齢者とのコミュニケーションには正解はなくても、信頼につながる言い方やうまくいくコツには共通点があると感じています。

この記事では、耳が遠い患者さん、認知症がある患者さんなど、身体的・精神的な特徴を踏まえた対応のポイントや、実際に現場で「この言い方は伝わりやすかった」と感じたフレーズ、訪問歯科でのご家族・介護スタッフとの連携のヒントなどを、私の経験も交えて具体的にお伝えします。

「話すだけでなく、伝わることを大切にしたい」

そんなあなたにお読みいただきたい内容です。

sakura
D.HIT編集部 sakura
千葉県在住 歯科衛生士歴17年目
新卒で歯科メーカーに就職。その後、歯科衛生士として公務員に転職。 結婚・出産を経て、「自由な働き方がしたい」と考えてフリーランス歯科衛生士へ。  現在は、臨床をやりながら、スタッフ教育を含むコンサルタントやオンラインでの歯科相談をして活動中。

高齢者との会話で意識すること

高齢の患者さんとのコミュニケーションは、若い患者さんとの会話とは少し違った気遣いが必要になります。体や気持ちの変化を踏まえた「ことばのかけ方」ができると、こちらの話がより伝わりやすくなります。言葉を少し工夫するだけで、「伝わった!」「笑顔が返ってきた!」そんな嬉しい反応があるかもしれません。

体の状態を理解することが第一歩

まず大切なのは、「話が通じない」と思う前に、その方の体の状態に目を向けることです。

  • 耳が遠くなる
  • 理解に少し時間がかかる
  • 視力が落ちてきて表情をよみづらい

加齢によるこうした変化があることを前提に話しかけ方を変えてみると、反応が変わってきます。

訪問歯科では、ご家族やヘルパー、訪問看護師などから事前に情報を得られることが多く、あらかじめ体の状態を把握できる場合もあります。一方で、クリニックに来院される患者さんは、問診票で既往歴などは把握できても「耳が聞こえにくい」「言葉が理解しにくい」といった個別の特性までは見えてきません。だからこそ、直接のやり取りを通して、目の動きや反応の速さ、返答の様子などからその方の状態を丁寧に感じ取っていく姿勢が必要です。

たとえば、ある90代の患者さんは、いつも私の話に曖昧にうなずくだけでした。伝わっているのかな?と疑問に感じたので、ある時「◯◯さん、私の声、ちゃんと届いてますか?」と聞いてみたんです。すると初めて、「少し聞こえにくい」と教えてくれました。それ以降は、話しかける時はマスクを外して口元をしっかり見せ、ゆっくり・はっきり話すようにしたところ、会話がスムーズになっただけでなく、笑顔も増えました。

うなずきや返事があっても、それが理解のサインとは限りません。 高齢の方の中には「聞こえていないと思われたくない」という気持ちから、わかったふりをしてしまう人もいます。だからこそ、「◯◯の説明をしましたが、どう思いますか?」など、確認しながら話すことが大切です。

また、認知症のある方は、突然の言葉や指示に戸惑いや不安を感じることがあります。たとえば「治療」ではなく「練習」「確認」といった言葉を使うだけで、表情が変わることも多く、安心感を与える工夫として効果的です。「これからお口を治療しますね」ではなく、「お口を開ける練習をしましょうか」「入れ歯の入れ方を確認しますね」とやわらかい言葉に置きかえることで、抵抗感がやわらぐので試してみてくださいね。

ペーシングで自然な会話を引き出す!

高齢の方との会話では、話す内容以上に大切なことがあります。それはどう話すかです。

特に意識したいのが、ペーシングという考え方。ペーシングとは、相手の話すスピード、間の取り方、声のトーン、呼吸などに合わせて話すことを言います。

相手がゆっくり話しているのに、こちらが早口で一気に説明してしまうと、「慌ただしいな…」「なんだか伝わりにくいな…」と感じさせてしまいます。逆にこちらも少しゆっくりとした話し方に変えたり、相手の話す間合いを大切にして聴くだけで、「この人は話しやすい」と感じてもらえるのです。

私が訪問歯科に同行した際、歯科スタッフの話に対して「うん…まあ…」と返事を濁されていた患者さんがいました。でも「最近、調子はどうですか?」とゆっくり聞いて、相手の呼吸に合わせて言葉を選ぶようにしたところ、「悪くないよ、口もスッキリしてるよ」と自然な会話が生まれました。

高齢になると特に、早く話すのが苦手になり、心に思っていることがあっても、若い人のスピード感についていけずに黙ってしまう方も多いです。そんな方に心を開いてもらうためには、自分のペースではなく、相手のペースで話す、ということを意識してみましょう。

「会話ができた」感覚が信頼につながる

高齢の患者さんとの関わりの中で、「ただ話しかけられた」だけではなく、「ちゃんと会話ができた」と感じてもらえることは、とても大きな意味を持っています。この「会話が成立した」という実感が、歯科衛生士との信頼関係の土台になるんです。

会話が信頼につながる理由
  • 相手が「対等に扱われた」と感じられる
  • 自分の意思が反映されたと感じることで、協力度が上がる
  • 「この人なら大丈夫」という心理的な安心につながる

特に高齢の方は、年齢や体の衰えによって受け身の存在として扱われることが多いもの。だからこそ、自分の話を受け止めてもらえたら、ひとりの人として認められた感覚が得られ、安心感につながります。スタッフが一方的に説明したり、事務的に処置を進めるのではなく、会話としてのキャッチボールがあったとき、患者さんの表情が明るくなるのを何度も見てきました。

また、「◯◯してください」「こうしますね」という一方通行の関わりではなく、「どうされたいですか?」と問いかける関係の中で、患者さんは自分の意思も大切にしてもらえていると感じます。この納得感は、治療やケアへの協力度にもつながります。とくに訪問歯科では、時間的な制限や介助の有無などに左右されやすいからこそ、その人の意思に沿ったケアを意識することで、よりスムーズな対応ができるようになります。

丁寧な受け答えや自然な雑談の中で、「この人とは会話ができる」「こちらの話も聞いてくれる」と感じてもらえたとき、心理的な距離がぐっと縮まります。このような安心感は、急な体調の変化や、処置に対する不安があるときにでも「この人がいれば大丈夫」と思ってもらえる、支えとしての信頼へと発展します。

「会話ができた」という感覚は、単なる言葉のやりとりではなく、「気持ちが通じた」経験として相手の中に残ります。 この積み重ねが、歯科衛生士としての信頼を築く大きな一歩になります。

信頼を得るための姿勢とは

高齢の患者さんに「会話ができた」「大切にしてもらえている」「この人なら安心」と感じてもらうには、具体的にどんな姿勢でいれば良いでしょうか。

信頼につながる姿勢
  1. 聴く姿勢(傾聴)を大切にする
  2. 相手のがんばりや努力を見つけて伝える
  3. 過去の会話を覚えておく

まずは、聴く姿勢(傾聴)を大切にすること。

高齢の患者さんの中には、話すスピードがゆっくりであったり、言葉を選ぶのに時間がかかり発言するまでに時間がかかったりする方もいらっしゃいますよね。そんなとき、こちらが先回りして話を遮ったり、早口で返事をしてしまったりすると、「ちゃんと聞いてもらえなかった」と感じさせてしまうことがあります。

傾聴の基本は、うなずきや相槌を返すことや、話を遮らず最後まで聞くこと。たったそれだけのことでも、「自分の話を真剣に聞いてくれている」と感じてもらうことができ、相手の心の扉が自然と開かれていきます。高齢の方は特に、生活の中で「話をじっくり聞いてもらう機会」が少ないことが多いです。だから、話す言葉にしっかり耳を傾けてもらえるだけで、「ここでは大事にされている」と感じてくれるんです。

2つ目のポイントは、相手のがんばりや努力を見つけて、言葉にして伝えることです。

たとえば私がよく言っていたのは、「今日は最後までお口をしっかり開けてくださって、ありがとうございます」という一言。こちらからすれば当たり前に感じることでも、高齢者にとっては意外と体力を使う行為だったりします。そのがんばりを見逃さず、きちんと言葉にして伝えることによって、「私はちゃんと見てもらえている」「がんばったことが認められた」と思ってもらえます。それは自信にもつながり、治療やケアへの協力的な姿勢を引き出すことにもつながっていきます。

そして3つ目は、過去の会話を覚えておくこと。

人は誰しも、自分との会話を覚えていてくれる相手には、自然と親しみや信頼を感じるものです。たとえば「この前お話されていたお孫さん、今週いらっしゃるんですよね?」というように、前回の会話の内容をさりげなく出すと、「覚えていてくれたんだ」と嬉しくなり、会話もぐっと深まるでしょう。こうしたやり取りは、診療中の数分の会話でもできますし、毎回でなくても印象に残る場面を一つでも覚えておくことで、関係性が大きく変わっていきます。

うなずきや相槌を意識した丁寧な聴き方や、小さな努力を見逃さない観察力、過去の会話を大切にする記憶力、このどれも特別なスキルが必要なわけではなく、少しの意識と心がけで誰でも実践できることです。でもその“少し”の積み重ねが、「ただ処置をする人」から「信頼できる存在」へと、あなたの印象を大きく変えていくのです。

歯科衛生士として技術を磨くことももちろん大切ですが、こうした“心のかけ方”を大事にすることで、患者さんとの関係性はより深く、温かいものになります。そしてその先に、私たち自身のやりがいも広がっていくのではないでしょうか。

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訪問歯科で工夫できること

訪問歯科では、診療室とは違う空間でケアを行います。患者さんの生活の場に入るということは、治療を受けに来てもらう立場から、こちらが伺う立場へと関係性が変わるということ。だからこそ、言葉づかいや態度、そして周囲の人との関わり方が、より重要になってきます。

初対面から始まっている

訪問歯科で最初に大切なのは、第一印象で安心できる人だと思ってもらうことです。とくに高齢の方にとって、自宅に医療関係者が訪れるというだけでも緊張や警戒心を持たれることはよくあります。

まずは、やわらかい表情・声のトーン・落ち着いた所作を心がけましょう。服装や持ち物も、清潔感と親しみやすさを意識すると、相手の表情がやわらぐのを感じます。

できれば、初回訪問のときは、いつもより少しゆっくり歩き、玄関で丁寧に自己紹介をしてみましょう。「今日は◯◯さんのお口のケアに伺いました。よろしくお願いしますね」と、単にケアをする人としてではなく、ご本人の暮らしに寄り添う人として伝えることがポイントです。

家族やステークホルダーとの連携

訪問診療では、患者さんご本人だけでなく、ご家族や介護スタッフとの関係性もケアの質に大きく影響します。スタッフ側が一方的に判断するのではなく、チームの一員として協力するというスタンスが求められます。

たとえば、処置後に「今日は◯◯が少し赤くなっていましたので、ケアのときに気をつけてあげてくださいね」と一言添えるだけで、ご家族やスタッフとの信頼が深まります。報告・連絡・相談を簡潔に、前向きに伝えることで、患者さんを中心とした連携がスムーズになりますよ。

また、前向きな声かけは、患者さんの介護に関わる方々のモチベーションにもつながるので、どんどん使っていきましょう!

前向きな声かけの例
  • ◯◯さん、最近よく食べられているようですね!
  • 最近、「ちゃんと入れ歯入れるね」など前向きな言葉が多いですよ
  • ここのところ、よくおしゃべりされてますね。何かいいことでもありましたか?

会話は量より質を大切に

訪問診療は、時間が限られていることが多く、どうしても“処置が優先”になりがちです。しかしその中でも、ちょっとした言葉のやりとりが、信頼をつくる大きな要素になります。

ある歯科衛生士さんは、訪問の前に、以前のケア記録やメモをざっと見返してから伺うようにしていました。処置の合間のちょっとした隙間で、「この前、◯◯がお好きっておっしゃってましたよね」と話しかけるだけでも、「ちゃんと覚えてくれてるんだ」と患者さんの気持ちは和らぎます。「今日はいつもよりお口の中がきれいでしたよ」など、相手の変化を見つけて伝えることも、信頼につながる大切な一言です。

ほんの数分でも数秒でも、その人らしさにふれる会話を意識することで、「処置だけじゃない」「この人は、私のことをちゃんと見てくれている」と思ってもらえる時間になります。

“寄り添い力”が生む、歯科衛生士としてのやりがい

患者さんとの会話は、治療のためだけでなく、その人らしい暮らしや人生によりそう時間でもあります。高齢の方は特に、「声をかけたつもりでも伝わっていなかった」「聞いてくれていると思ったのに、気持ちは届いていなかった」といったすれ違いが起きやすいからこそ、私たち歯科衛生士には、“伝える力”と“聴く力”の両方が求められていると感じます。

高齢者との会話 3つのキーワード
  • 敬意
  • 共感
  • 継続

敬意とは、一人ひとりの人生や努力を尊重し、言葉や態度でその気持ちを表すこと。高齢の方の中には、時には若い人から下に見られたり、「自分はもう高齢だからダメだ」と感じている人も多いものです。だからこそ、会話をする時に絶対に忘れてはいけないのが「敬意」の気持ち。高齢者は長い人生の先輩であり、対等な関係として接する必要があるんです。

共感とは、話の内容よりも、相手の気持ちに寄り添う姿勢を大切にすること。そして継続は、一度きりの関わりではなく、積み重ねの中で信頼を育てていくこと。どんなに小さな声かけでも、どんなに短い時間でも、そこに「あなたのことを大切に思っています」という気持ちがこもっていれば、必ず伝わります。そしてその積み重ねが、やがて大きな信頼につながっていきます。

そして、忘れてはいけないのが、その信頼やつながりが、私たち歯科衛生士自身のやりがいにもつながっているということ。「ありがとう」「あなたが来てくれるとうれしい」という感謝される一言が、忙しい日々の中で何よりの励みになった経験は、誰しもあるのではないでしょうか。患者さんとの会話は、ケアの一部であると同時に、私たち自身が「この仕事をしていてよかった」と思える瞬間でもあります。

歯科衛生士は、“ただ処置をする人”ではありません。「この人と話すと、ちょっと元気が出るな」「安心してまかせられるな」と思ってもらえる存在であることが、私たちの本当の価値だと思います。

これからも、技術だけでなく、ことばや関わり方にも心を込めて、あなたらしいコミュニケーションで、患者さんの笑顔と、あなた自身のやりがいを増やしていきましょう。

sakura
D.HIT編集部 sakura
千葉県在住 歯科衛生士歴17年目
新卒で歯科メーカーに就職。その後、歯科衛生士として公務員に転職。 結婚・出産を経て、「自由な働き方がしたい」と考えてフリーランス歯科衛生士へ。  現在は、臨床をやりながら、スタッフ教育を含むコンサルタントやオンラインでの歯科相談をして活動中。