患者さんとの信頼関係を築くために、歯科衛生士にも接遇スキルが必要だと言われます。
でも診療中はどうしても技術的なことに優先して意識が行きがちで、患者さんとのコミュニケーションがおろそかになってしまったり、せっかく接遇スキルを身につけても実際の現場でそれを活かせていない!と感じたりしている方も少なくないと思います。
歯科衛生士にとっての「接遇」って、なんでしょうか?
接遇で一番重要なマインド(心構え)、接遇の基本、現場で役立つ実践的なアドバイスまで、深掘りしていきます!
第一に整えるべきはマインド!
接遇と言ったら、最初はどうしても「マニュアル通りに対応すること」ばかりに目がいってしまうこともあるでしょう。ですが接遇とは、単に言葉遣いや笑顔やサービスのことを言うのではありません。
接遇のために、まず第一に整えるべきは「マインド」、つまり「心構え」です。接遇スキルがいくら完璧でも、患者さんに対する心構えがなければ、それを十分に発揮することはできないんです。
「マインド」という言葉を聞いたとき、多くの方は「心の持ちよう」や「考え方」と思うかもしれません。ですが実際の「心構え」とは、もっと深い意味を持ちます。
患者さん一人一人の立場に立ち、どんな態度でどんな言葉を選び、どんなことをすれば最も喜んでもらえるか、思いやりと気づかいの心を持って考える。それが、接遇のマインドです。
患者さんが本当に安心できる接し方を意識できているか、振り返ってみましょう。
「相手目線」で考え、思いやる気持ち
常に「相手目線」で考え、思いやることは、接遇マインドの最も大切な基本です。どうすれば、患者さんがリラックスして治療を受けることができるか。何よりも患者さんの立場に立って、その気持ちを理解するよう努めましょう。
患者さんの気持ちに寄り添う
接遇のために、私たち歯科衛生士ができる最初のステップは、患者さんの気持ちに寄り添うこと。患者さんがどんな気持ちで治療を受けているのかを想像し、その目線で接することが、欠かせない要素なんです。
- 「自分が患者だったらどうされたいか?」を想像する
- 患者さんは緊張、不安、痛みを感じている可能性が高い
私も以前、患者さんの個々の状態や気持ちに気づかず、気づこうともせず、どちらかというと「業務をこなしている」ような感覚で接していた時期がありました。でもその時期を経てある時気が付いたのは、患者さんにも心があるのだということ。患者さんは一人一人、不安や恐れ、痛みなど様々な感情があるということ。考えてみれば当然なのですが、患者さんをただ「治療を受けに来た患者さん」としてしか見ていなかった時は、深く気にしたことがなかったんです。
そんな私が現在、臨床で患者さんに対して意識しているのは、未来の予測を伝えることです。たとえば、「少し痛みが出るかもしれませんが、すぐ終わりますので」「少し響く感じがしますよ」など、これから患者さんに起こるかもしれないことを事前に伝えておくんです。そうすることで、患者さんの不安をある程度取り除くことができます。私自身、未来が予測できないと不安になるタイプ。不安の強すぎる方には逆効果な場合もありますが、多くの方には効果的です。
事前に伝えておくことで、あとでクレームにもなりにくくなるので、自分のリスク回避にもなっています。
小さな変化や仕草に気づく
まずは細やかな変化や患者さんの気持ちに気付き、敏感に反応することが大切です。
冷静な観察力をもって、患者さんの小さな変化や仕草に気付き、適切に対応しましょう。診療補助についたときは特に、患者さんのちょっとした変化にも目を向けること。これは、歯科医師が治療に集中しやすい環境を作ることにも繋がります。
たとえば歯を削っている時に、手がグーになって力が入っていたり、眉間にシワが寄っていたり、呼吸が浅くなっていたり…診療補助ならではの見えてくるポイントがあると思います。
そういった反応を見逃さず、適切に声をかけたり対応をすることで、患者さんの不安を和らげることができます。痛みの反応以外でも、足が寒そうな患者さんに膝掛けをかける、眩しそうにしていたらライトの角度を変える、姿勢が苦しそうだったらチェアの角度を変えるなど、できることはたくさんありそうですね。
心では思っていることがあっても、口に出さない患者さんは多いです。治療に関して疑問点があったとしても、患者さんのほうからわざわざ質問してくれることはあまりありません。歯科医師は治療に集中しているので、そういった患者さんの細かい要望や本心を聞き出すのは歯科衛生士の仕事。思いやりと気づかいのマインドで、患者さんの本当の気持ちに気づき、細かいところまで気配りができると良いですね。
歯科衛生士自身が心に余裕を持つ
患者さんの小さな変化や気持ちに気付き、寄り添うために、最も重要なこと。それは、歯科衛生士自身が心に余裕を持っておくことです。
いつも忙しそうにバタバタしている歯科衛生士に、患者さんが心を開いて話をしてくれるでしょうか。
自分のことにいっぱいいっぱいで余裕のない精神状態で、患者さんの小さな変化に気づき、細やかな気配りをすることができるでしょうか。
業務が忙しいのは事実であり仕方ないとしても、それは目の前の患者さんには関係のないことです。心に余裕を持って接することで、患者さんに対して「いつでも何でも聞いてくださいね」という雰囲気を出すことができるんです。患者さんが自ら心を開いてくれるような、おおらかで余裕のある歯科衛生士になりましょう!
歯科医院での接遇スキルって?
歯科医院での接遇スキルの基本は、患者さんに「安心感」を与えることです。
どんなに優れた治療技術を持っていても、患者さんがリラックスできない環境では、治療の効果は半減してしまうこともあります。接客や接遇と言っても、歯科医院は患者さんを「おもてなし」する為の場所ではありません。1番の目的は「治療」なんです。患者さんも、お客様として「おもてなし」してもらう為に来ているわけではありませんよね。
適切な治療を行うためには、まず患者さんにリラックスして安心してもらい、心を開いてもらうこと。それが歯科医院での接遇の意味だと思います。
では、患者さんに安心感を与えるためには、どんな接遇スキルが必要なのか、具体的に見ていきましょう。
笑顔とアイコンタクトでリラックスしてもらう
まず意識してもらいたいことは、患者さんとの最初の接点から接遇は始まっているということです。患者さんがリラックスできるかどうかは、診療室に入ってきた瞬間から、私たちの対応にかかっています。
「笑顔」と「アイコンタクト」は、接遇の基本中の基本。多くの患者さんは診療室に入る時、不安や緊張を感じています。特に初めての来院や久しぶりの治療の場合は、大きな不安を感じていることが多いです。
そんな患者さんに安心してもらうために、まずは笑顔でのアイコンタクトを意識してみましょう。患者さんを誘導するときに、「今日はどんなところが気になりますか?」という優しい声かけと一緒に、目も合わせてみましょう。目をあわせて微笑むだけで、患者さんは無意識にリラックス感を覚えます。これは心理学的にも「安心している」「信頼できる」といったポジティブな感情を引き出すための基本的な手段です。
アイコンタクトには、「あなたに気を配っている」「あなたのことを大切に思っている」というメッセージが込められています。目を合わせることで、患者さんは自分が無視されていない、おろそかにされていないと感じます。
そして笑顔には、不安を和らげる効果があります。ユニットに座っている患者さんが緊張している様子を見たときには、無理に話を振るのではなく、まずは穏やかな笑顔です。すると患者さんの気持ちがほぐれ、自然と治療に対する心の準備が整います。この小さな行動が患者さんの心を開き、信頼感を生み出すきっかけになります。無理に話をさせるのではなく、まずは「リラックスしてもらう」という姿勢を示すことが大切です。
笑顔とアイコンタクトで、まずは治療が始まる前の段階での不安を取り除くことで、その後の治療を円滑に進めることにもつながります。
わかりやすく丁寧な言葉遣いや声かけ
接遇では、声掛けや言葉遣いも重要な要素です。私たち歯科衛生士が使う言葉ひとつで、患者さんの不安を軽減したり、逆に不安を強くしてしまうこともあります。
治療中、患者さんが不安そうな表情を見せたり、痛みを感じているような仕草が見えたとき、どのように声をかけますか?無言で治療を続けたり、寄り添わずに「大丈夫ですよー」なんて言っていませんか?
「どうですか?痛みは大丈夫ですか?」「少し痛みがあるかもしれませんが、すぐに終わりますので安心してくださいね」…患者さんが感じている不安や痛みに対してこのように早めに声をかけることで、治療に対する不安を和らげることができます。
「治療で何か気になることはありますか?」「いつでも遠慮なくおっしゃってくださいね」と声をかけ、患者さんが治療に対してどんな疑問、不安があるのか聞き出し、それを解消する配慮も必要です。
言葉遣いは、「敬語」が基本です。長い付き合いで信頼関係が確立しているならフランクな言葉遣いでもいい場合もありますが、そうでない場合は丁寧な敬語を使いましょう。ぶっきらぼうな言葉遣いの歯科衛生士より、丁寧な言葉遣いの歯科衛生士のほうが、「治療も丁寧にしてくれそう」と感じてもらえます。
敬語を使う際のポイントは、謙虚な姿勢。たとえば、「◯◯してあげますね」という表現は無意識のうちに上から目線になってしまうことがあります。「◯◯させていただきますね」という言い回しを使うことで、患者さんに対する敬意が伝わります。「◯◯しますね」も、言い方によっては一方的な印象になりがち。クリーニングをはじめる際、「じゃあクリーニングしていきますね!」よりも「今から、クリーニングさせていただきますね」のほうが、丁寧さが伝わります。
身だしなみを整える
身だしなみと聞いて、間違えてはいけないのが「おしゃれ」との違いです。おしゃれとは自分の満足度アップのためにするもの、身だしなみは相手のために整えるものです。
「相手に不快な思いをさせない」というのが、身だしなみの基本です。
わかりやすい例で言えば、ミニスカートは、自分が足を出したくておしゃれで履くもの。もし職場でミニスカートを履いていたら、他人には不快に思われることが多いです。おしゃれは自由ですが、身だしなみとしてはミニスカートは良くないと言われるのは、こういう理由があるからなのです。
歯科衛生士にとっての身だしなみとは、つまり清潔感です。
- ユニフォーム
- 髪型
- 化粧
- 靴
- 口腔内
- 手指の衛生
- 器具の清掃
これらのポイントをチェックし、常に清潔感を保ちましょう。
患者さんにとって歯科衛生士は、自分の口の中を触る人です。実際に口に触れる手には手袋をつけますが、それだけでは不十分だと思っています。歯科衛生士が清潔な状態でいることが、患者さんの信頼感を高め、「この人にやってもらいたい」と思ってもらう要素の1つにもなります。
一貫性を持った対応
みなさんは、「一貫性を持った対応」と聞いてどのような対応を思い浮かべますか?
それは、どんな状況でも冷静で安定した対応をすることです。特に治療中に予期しないことが起きた場合、決して焦らず取り乱さず、冷静で安定した対応をすることで、患者さんの安心感につながります。
治療中、患者さんが目を閉じてリラックスしているのに、突然ビクッと体を動かす…なんてことがありませんか。そんな時、驚いて黙ったり、「痛かったですか!?」と焦ったりせず、ここでもやはり「冷静さ」を発揮しましょう。ゆっくりと「大丈夫ですか?無理せず、痛みがあれば教えてくださいね」と声をかけ、必要であれば治療を少し休憩するのも良いでしょう。私も同じような経験がありますが、「最初は不安だったけど、落ち着いて治療を進めてくれて安心しました」と最後に言ってくださり、私自身も安心したことを覚えています。
患者さんごとの個別対応
接遇はマニュアル通りではなく、患者さん一人一人の状態や性格、ペースに応じて、臨機応変に対応することが求められます。同じ言葉でも、患者さんによって感じ方、受け取り方は異なります。ある患者さんは治療中に話しかけてもらうことで安心できるかもしれませんし、別の患者さんは静かな治療環境を好むかもしれません。マニュアル通りの声掛けや行動だけではなく、患者さんの反応を見て柔軟に対応を変えることが重要なんです。
治療内容を事前に説明したり、表情の変化に注意してこまめに声をかけたりすることはどんな患者さんでも同じですが、たとえば不安を感じやすく恐怖心の強い繊細な患者さんの場合は、特に配慮する必要があります。どんな治療をどんなふうに行うのか、どのくらいの時間や費用がかかるのか、痛みがどれくらいあるのかなど、本人が納得するまで、よりしっかりと細かく説明しましょう。次回に繋げる為に治療後のフォローアップも重要です。
また、年齢によっても、気を付ける部分は違ってきます。
たとえば高齢の患者さんは、年齢とともに体力や感覚が変わり、歯科治療に対して大きな不安を感じている方が多くなります。筋力の関係で長く口を開けているのがツライ方もいらっしゃいますので、休憩しながら、よりゆっくりとしたペースで、個々の身体の状態までよく観察しながら治療を進めましょう。
小児患者さんだったら、歯科医院自体初めてだったり、「歯医者さんは怖い!」と感じている子も多く、恐怖心を取り除く工夫が必要になります。安心してもらうためには、好きなキャラクターの話をするのがおすすめ!着ている服や靴、持ち物を見てみたり、「どんなキャラクターが好きなの?」と聞いてみましょう。好きなキャラクターがわかれば、キャラクターにちなんだ言葉を使って治療を進めていくと効果的です。たとえば「お口にバイキンマン来ないようにぬりぬりしようね〜」とキャラクターで想像することで、子どもは聞き慣れたフレーズやワードを聞いて自然とリラックスし、緊張がほぐれて、治療に協力的になってくれます。最近ではむし歯がある子どものほうが少なくなってきましたが、逆にむし歯がある子どもは、1人で何本ものむし歯を持っている傾向があります。むし歯治療を繰り返している子は、痛みを知っている分、治療が怖いという感情を抱きやすいので、より配慮しましょう。工夫によって歯科治療をなるべく楽しい経験にして、子どもに「歯医者さんにいくと楽しい!」と感じてもらえると良いですよね♪
もし患者さんからフィードバックをもらえるタイミングがあれば、聞いてみると良いです。治療後に「どうでしたか?」と尋ねることで、患者さんが感じたことを直接聞くことができ、次回に向けて改善すべき点が見えてきます。患者さんからの意見や感想を反映させることで、信頼関係が強化され、よりよい治療体験を提供できます。定期的なフィードバックは、患者さんとの絆をより一層深めるきっかけになります。
プロ意識と責任感を持とう!
今の時代、歯科クリニックに求められているのは、治療の技術だけではありません。予防歯科の観点からも、患者さんが自ら行きたい、定期的に通いたいと思えるようなクリニックが必要とされているんです。そのためには、患者さんがリラックスして、安心して治療を受けることができる環境を率先して作っていくこと。
接遇は、患者さんとの信頼関係を築くために欠かせない重要なスキルです。歯科衛生士が接遇スキルを高めることで、患者さんがより安心して歯科クリニックに通うことができ、それが患者さんの健康にもつながっていきます。
私たちは医療従事者として、患者さんの健康や安全を守る責任があります。歯科衛生士は、治療技術と同じくらい、患者さんに対してプロ意識と責任感を持って接することが求められているんです。