訪問歯科衛生士はここがツラい!職場選びで注意することは?

訪問歯科で働く歯科衛生士は、どんなことがつらいと感じているのでしょうか?

「口腔ケアが好きで訪問歯科衛生士になったけど、思っていたのと違う…」
「体力的にも精神的にもなんだかつらくなってきた」
「訪問歯科衛生士の仕事はやりたいけど、今の職場で続けていけるかな…」

どんな職場で、どんな人たちと、どういう働き方をするか?によって、状況は大きく変わります。「自分に合った職場で自分らしくイキイキと働きたい!」と考えている歯科衛生士は多いと思いますが、現実は、今の状況や働き方に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

ここでは、訪問歯科衛生士が感じている「つらい」と思う理由を、私の実体験も交えてお伝えしていきます。今の状況や働き方に悩んでいる方や、環境を変えたいと思っている方へ、職場選びの際のポイントなど、働き方を選択する際の参考にしていただければと思います。

kasumi
D.HIT編集部 kasumi
神奈川県在住
歯周病治療を中心とした一般歯科や、訪問歯科を経験。子どもとの時間を最優先に歯科衛生士としてのキャリアも積んでいきたい!と思いフリーランス歯科衛生士へ転向。 理想の働き方を実現するべく日々勉強中。

訪問歯科衛生士として勤務していた私がつらいと感じていたこと

訪問歯科は、歯科医院に通院できない患者さんが利用されます。ご自宅や施設に伺い診療を行うので、外来での診療とは異なることも多いですよね。必要書類の準備など外来とは違う業務内容もあったり、訪問歯科の保険のルールなど、訪問歯科衛生士として働いていて戸惑うことも多くあると思います。

実際に私が訪問歯科で働いていた時につらいなと感じていたことは…

  • 行動を共にするスタッフとの人間関係
  • 拒否が強く口腔ケアを行うのが難しい患者さん対応
  • 訪問歯科ならではの労働環境
  • 腰痛の悪化など身体への負担

などがありました。人間関係はどの職場でも悩みの種としてあることだとは思いますが、訪問歯科ならではの悩みもあります。難しい患者さんの対応の仕方や、外来とは違い限られた機材や特殊な環境の中で、”大変だな”と感じることがたくさんありました。私の実体験を具体的にお話ししていきますね。

行動を共にするスタッフとの人間関係

訪問歯科は、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手・訪問コーディネーターなど、少人数で1台の車で行動することが多くあります。施設や居宅などをまわり、一日中行動を共にして、治療や口腔ケアを行います。診療中はもちろん、移動中も狭い車内で長時間過ごすこともあります。一緒に働くスタッフは選ぶことができないので、「この人苦手だな」「合わないな…」と思う人がいても、仕事なので嫌だとは言っていられませんよね。

私が働いていた医院では、お昼休憩もみんな一緒で…休憩中も仕事の話が多く、「これは休憩と言えるのか?」というような状況。休憩はしっかり取りたいと思う私には、つらい環境でした。

また、治療の時などは先生と1対1になることも多く、先生の治療方針と考えが合わないと感じたり、患者さん対応の仕方に疑問を感じたり…ということもありました。しっかりと患者さんと向き合って少しでも良い状態にしたい、と頑張っている先生もいますが、なかにはご高齢の患者さんの話にあまり耳を傾けず一方的な診療を行う先生もいたりして、尊敬できない先生と1日行動を共にしなくてはならない状況は、かなりストレスに感じていました。

拒否が強く口腔ケアを行うのが難しい患者さん対応

高齢者施設など、多くの利用者さんがいらっしゃるところでは、認知症の患者さんも多いです。訪問歯科や口腔ケアについて理解ができない状況の方も、中にはいらっしゃいました。口腔ケアを行おうとしてもなかなか口を開けてもらえないこともあるし、暴言を吐いたり暴力的な患者さんもいます。そういう患者さんのケアを行うときは、ケガをしないよう注意が必要ですし、精神的にもかなり負担が大きいと感じていました。

一人での対応が難しい患者さんは、ほかのスタッフと二人で対応をしたり、施設のスタッフさんやご家族に協力してもらいながら行うこともあります。ある時、毎回拒否が強い患者さんの口腔ケアを二人対応で行っていたのですが、必死に口腔ケアを行っている最中に、ケアをしていた歯科衛生士が誤って指を口腔内に入れてしまい、思い切り噛まれてしまったことがありました。すぐにケアを中止して病院へ向かい処置をしてもらったため、大事には至らなかったのですが、とても怖いと感じましたし、細心の注意を払って慎重に行わなければならないと改めて感じた出来事でした。

口腔ケアのため訪問をしても、「そんなの頼んでいない!」「やらなくていい」などと言われてしまうこともあります。訪問歯科の利用はご家族から依頼を受けて行うことが多いので、家族としては治療や口腔ケアをしてもらいたいが、患者さんご本人には受け入れてもらえないという板挟みの状況でした。

ご高齢の方は特に、口を長時間開けていられない方も多いです。あまり時間をかけてしまうと、はじめは口を開けてくれていた患者さんも「もういい」と途中から口を開けてくれなくなってしまった…なんてこともよくありました。機嫌を損ねないようお話をしながら、素早く終わらせることができるように、かなり気を使ってケアを行っていました。

訪問歯科ならではの労働環境

訪問歯科は車移動が主になるので、夏は暑く、冬は寒いなかで荷物の積み下ろしなどもしなければなりません。特に夏の暑さは、精神的にも体力的にもかなり疲弊してしまいますよね。大雨でも台風でも診療には向かいますので、準備の段階でずぶ濡れになるなんてことも。天候や季節によってもかなり環境の変化が大きく、負担に感じていました。

私が働いていた医院の訪問歯科診療では、患者さんの居宅に伺うことも多かったのですが、特につらかったお宅があります。それは、老夫婦お二人で生活されていた方だったのですが…真夏なのに窓は締め切り、エアコンはもちろん扇風機すら使っていないお宅でした。正直、かなり過酷な環境でした。命の危険すら感じるような状況で、いつも訪問前に電話連絡をしていたのですが、ある時何度かけても連絡が取れず、倒れてしまっているのでは?とかなり焦ったことがありました。

また、外来と違い、その日のアポによってスケジュールが変わるので、アポが詰まっている日は、移動時間も考えると休憩がほとんど取れないこともありました。お昼ご飯だけぱぱっと食べて次の訪問先へ移動することもあり、ほぼ休憩なしなんてこともしばしばありました。

腰痛、身体への負担 

私はもともと腰痛持ちだったのですが、訪問歯科で勤務をしてから腰痛が悪化してしまいました。車椅子やベッド上の患者さんの口腔ケアを行うことが多く、前かがみや、中腰の姿勢など、無理な体勢でいることが多かったからだと思います。

夜、腰が痛くて眠れない事もありました。整骨院に通ったり、自分でストレッチをしたりしましたが、仕事に行くとまた痛くなって…の繰り返し。症状が改善することはありませんでした。腰痛がひどくなり「いつまで続けられるんだろう?」という不安も、訪問歯科を続けていくうえで「つらいな」と感じる要因でした。

訪問歯科ならではのコミュニケーションの難しさ

訪問歯科の患者さんは疾患をお持ちの方が多いため、一人一人全身状態の把握をして注意深く診療を行う必要があります。そのためには患者さんだけでなく、ご家族や施設スタッフさんともコミュニケーションが必要になります。

全身疾患の把握や高齢の患者さんとの関わり

訪問歯科を利用される患者さんは、自力で歯科医院へ来ることが困難な方々です。来られない理由は様々なので、患者さん一人一人の全身状態を把握して対応することが求められます。「歯だけみてればOK」というわけにはいかないんです。その都度、症状や状態が変わったりもしますので、歯科以外のいろいろな知識や、予想外の事が起きた時に対応する力などが必要で、大変と感じる方も多いようです。

例えば、認知症の患者さんは多くいらっしゃいますが、認知症といっても、軽度の方から重度の方まで様々ですよね。比較的症状の軽い方は、お話もしっかりできて歯科診療について理解してくださいます。しかし、進行が進んでいる方は、歯科診療についても理解ができず会話もままならない方もいます。認知症に限らず、様々な病気や症状をお持ちの方がいらっしゃるので、どんな病気でどんな症状なのか、訪問前に確認することがたくさんあります。

また、長い期間患者さんを診させていただいていると、はじめの頃よりも明らかに症状が進行されているな、と感じることもあります。だんだんと衰えていく様子を目の当たりにすることはつらいですし、先週はいつも通り口腔ケアを行ったのに翌週訪問するとお亡くなりになられていた…なんてことも。やはり、ずっとケアしてきた患者さんが亡くなることはショックですし、精神的な負担を感じる方も多いのではないでしょうか。

施設スタッフやご家族との関わりの必要性

一般歯科では、医院に患者さんご本人が来院されてその時の症状など問診を行い、診療を始めるという流れです。一方、訪問歯科診療では、患者さんのご家族から依頼を受けて、検診を行い、診療を始めるという流れが多くなります。治療の経過や現在の状態など、その都度ご家族と相談しながら治療を進めていったり、ケアマネジャーさんや施設スタッフさんなどと連携をとりながら診療を行ったりすることになります。

そのため患者さんご本人とのコミュニケーションだけでなく、ご家族や他職種の方々とのコミュニケーションをしっかり取り、様々な場面で、その時々に合った対応が必要になります。

「患者さんはこう言っていたけど、施設のスタッフさんに確認したら実際は違っていた」なんて経験はありませんか?一見しっかりされているなと思う患者さんでも、実はかなり認知症が進行していたなんてこともあります。患者さんの事を把握されている方と密にコミュニケーションをとっておく必要があるなと、私も常々感じていました。

また、訪問コーディネーターがいない医院の場合、アポの管理や施設・ご家族とのやり取りまで歯科衛生士の業務なんてところもあります。時には、電話対応など業務時間外での対応を求められることもあったり…歯科業務以外の部分で負担が大きいと感じている歯科衛生士さんも、多くいらっしゃると思います。

注意するべき職場選びのポイント3つ

働く訪問歯科医院を選ぶ際に、気をつけるべきポイントはどんなところでしょうか?

まずは、自分が働く上での条件を明確にすることが大切です。給料・時間・場所など職場を選ぶ際に重要視するポイントは人それぞれ違うと思います。

そして、職場選びを失敗しないためには、なるべく多くの情報を集めることが重要です。実際に見学に行って、医院の雰囲気やスタッフの様子など見て確認したり、見ただけではわからないことも多いので、気になることがあれば遠慮せずに面談時などにしっかりと質問をして、できるだけ疑問に思うことをクリアにしておくことが大切だと思います。

なかなか自分に合う職場を見つけることができずに悩んでいた私が思う、職場選びの際に特に気をつけたいポイントをお伝えします!

ポイント1 スタッフの人数は足りているか?

私が過去に働いてきた医院で感じていたことは、圧倒的な人手不足です。求人サイト等には「先輩歯科衛生士がしっかりとサポートします」「歯科衛生士多数在籍」など書かれていることが多くありますよね。ところがいざ就職してみると、スタッフの数が足りておらず、一人ひとりの業務量が多く自分の仕事でいっぱいいっぱいで、教育やサポートどころではないということがありました。

歯科医院で働く、多くの歯科衛生士が感じていることではないでしょうか。訪問歯科も同じで、そんな状況では、スタッフ教育をする側も教えてもらう側もつらい・大変と感じてしまい、長続きしないという状況に陥ってしまいます。

何人体制で1日何軒まわるのか、施設では患者さんの人数に対して何人のスタッフで対応しているのか等、細かいところまで確認しておくことで、「働いてみたら想像と違った」というギャップを埋めることができると思います。

また、訪問コーディネーターや歯科助手がいるのかどうかで業務範囲が変わることもあるので、どのようなチーム体制で診療をしているのかも確認しておくとよいでしょう。

ポイント2  業務内容を詳しく聞いておく

いざ働き出してみると、「え、こんなことまでするの?」というような経験はありませんか?私も経験がありますが、やっと仕事に慣れたと思ったら次から次へと新しい仕事が増えていき、慣れて楽になるどころかどんどん大変になっていく…そんな環境では、長く働き続けることは難しいですよね。

訪問歯科衛生士は、基本的に口腔衛生業務がメインになるとは思いますが、他にはどんな業務があるのでしょうか?

  • 診療の補助
  • 器具機材の準備や片付け
  • アポイントの管理
  • 車の運転
  • 事務作業

私が以前働いていた医院では、これがすべて歯科衛生士の仕事でした。医院によって業務範囲は違うので、どこまでが歯科衛生士の業務なのかをしっかり確認しておきましょう。

ポイント3 訪問歯科は人間関係が重要

どんなに良い条件だと思っても、人間関係が最悪だとつらくなってしまいますよね。とはいえ、一緒に働いてみないとわからないことも多くあります。できれば、働いているスタッフの様子を実際に見学して、患者さんの対応の仕方やほかのスタッフとのコミュニケーションの様子を見ておくとよいと思います。また試用期間などを利用して「この職場で長く続けていけそうか?」を見極めることも大切です。

「新しい職場で、スタッフと仲良くなれるかな?」と不安に思う人もいるかもしれませんが、正直、仲良しになる必要はないと思います。もちろん、気の合うスタッフと仲良くなれれば仕事もしやすいですし、楽しく働けるでしょう。ですが実際は気の合う人ばかりではないので、みんなと仲良くなろうとすると、つらくなってしまいます。仕事上の人間関係は、仕事を共にするうえで普通にコミュニケーションが取れて、程よい距離感で無理なく関わっていければ、それで良いと思っています。

訪問歯科を続けるか悩んでいる方へ

今は超高齢化社会で、訪問歯科のニーズは年々高まっています。口腔ケアの重要性も認識されてきていて、私たち歯科衛生士を必要としている場所はたくさんあります。

もし今、訪問歯科の仕事が「つらい」と感じているのなら、今の環境が合っていないのかもしれません。

せっかく取得した歯科衛生士の資格を活かして働き続けるためには、自分が働きやすいと感じる場所・働き方を見つけることが何よりも大切だと私は思っています。

訪問歯科の歯科衛生士は大変だけどやりがいもある

大変なこと・つらいと思うことをお伝えしてきましたが、私は訪問歯科でしか感じられないやりがいもたくさんあると思っています。

訪問歯科は、患者さんと関わる機会も多く、継続的に診ていくことで信頼関係を築きやすかったり、感謝されることも多いです。

訪問歯科を利用する患者さんは、ご自身での口腔管理が困難で口腔環境が悪い方が多いので、週1回のケアを楽しみにしているという方もいます。ケアが終わると「すっきりしたわ」「ありがとう」「来てもらえて嬉しい」ととても喜んでもらえたり、「毎週来てくれるのを楽しみにしているの」と言ってもらえた時はとても嬉しく、頑張ろうというモチベーションにもなっていました。患者さんご本人だけでなくご家族や施設スタッフさんから感謝されるというところも、訪問歯科ならではでしょう。

また、ご高齢患者さんからいろいろなお話を聞かせていただくのも楽しかったです。人生経験豊富な方の話は、歯科以外の事でも勉強になることがたくさんありました。

自力での口腔ケアが困難な方にとって、歯科衛生士によるケアは、虫歯や歯周病予防だけでなく、誤嚥性肺炎の予防や全身疾患の予防にも大きく関わる重要な役割を担っています。ただ歯をきれいにするというだけでなく、その方の全身の健康や、人生に関われる仕事だと思っています。

フリーランス歯科衛生士が訪問歯科を任されるようになった話。ひとつの選択肢として、目指す人へ。
訪問歯科衛生士としての働き方ややりがいについて、フリーランス歯科衛生士の体験をもとに紹介。実際の現場で得た知識とアドバイスを通じて、訪問歯科の魅力とキャリアアップの可能性をお伝えします。歯科衛生士として新たなキャリアを模索している方は必見!

選択肢はたくさんある!

「訪問歯科を経験してみたけどやっぱり私には合わなかった」
「訪問歯科は好きだけど、今の職場で働き続けるのはつらい」

など、いざ働いてみると「つらい」と感じることもありますよね。今いる職場がつらいと感じているのなら、他の選択肢にも目を向けてみましょう。歯科衛生士の働き先は、一般歯科医院や訪問歯科医院だけでなく、他にもいろいろあります。どんな職場で、どんな働き方をしたいですか?

  • 他の訪問歯科医院に転職
  • 訪問と外来を兼任して働く
  • 訪問歯科ではなく一般外来の歯科医院で働く
  • 介護・福祉施設などで専属歯科衛生士として働く
  • フリーランス歯科衛生士として自分のやりたいことを自分で選択する

私は訪問歯科衛生士として働いて、外来では経験できないようなことをいろいろと経験し、歯科衛生士としての幅が広がったと思っています。ただ、腰痛の悪化や職場の環境・業務内容に疑問を感じたことで、このまま続けていくのはつらいと感じていました。

もう歯科衛生士として働くことにも疲れてしまい「歯科衛生士やめたいな」と思っていた時、フリーランス歯科衛生士という働き方があることを知りました。「これなら歯科衛生士の資格を活かして続けることができるかもしれない!」と思い、フリーランス歯科衛生士という働き方を選択しました。

選択肢は一つではありません。視野を広げて、いろんな可能性を考えてみてください。自分に合った職場・働き方は、必ずあるはずです。

まとめ

訪問歯科衛生士は、環境・対象患者さん・労働条件など外来と違うことが多く、負担に感じたり、つらいなと感じることも多くありますよね。医院によっても方針やケアのやり方が違ったり、人間関係など環境によって働きやすさやモチベーションは大きく変わります。

今の環境を見直して、自分らしくいられる環境に身を置くことで、仕事はもちろん私生活へも良い影響をもたらし、充実した歯科衛生士ライフを送れるのではないでしょうか?無理なく自分に合った働き方を選択することが、歯科衛生士としてのやりがいやキャリアアップにも繋がっていくのだと思います。

kasumi
D.HIT編集部 kasumi
神奈川県在住
歯周病治療を中心とした一般歯科や、訪問歯科を経験。子どもとの時間を最優先に歯科衛生士としてのキャリアも積んでいきたい!と思いフリーランス歯科衛生士へ転向。 理想の働き方を実現するべく日々勉強中。