「また人が辞める…もっと早く言ってくれればいいのに…」
同僚の突然の退職に、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。
辞めた理由は「一身上の都合」。でも、そこに隠された「本当の理由」は、一体何だったのでしょう?
「もっと早くに何か気付けていたら、違う結果になっていたかもしれない…」そんなことを口にするチーフ歯科衛生士を、何人も見てきました。
「もう無理」「もう限界」という、声にならないサインを見逃さないためにできることは無いのでしょうか?
制度や待遇だけでは防げない、「辞めたい気持ち」の正体とは。チーフ歯科衛生士や院長が見落としがちな、離職の兆しとその背景にあるスタッフの本音、それに気付くためのヒントをお伝えしていきます。
表面的な退職理由の裏の本音「もう無理」
「一身上の都合で退職します」
「体調がすぐれなくて…」
そんな言葉を残して、スタッフが辞めていく光景をみたことはありませんか?表面的にはよく聞く退職理由ですが、その裏側にある本音を考えたことはある人は少ないかもしれません。
歯科クリニックの現場では、頑張って働いてきたスタッフが限界を迎えて辞めていく…といった場面が珍しくありません。
- 「頑張っても報われない」
- 「いいように使われている気がする」
- 「自分の存在意義がわからない」
そんな本音が語れず、静かに現場を去っていく人は多いのです。
何もせず、辞めていく人をただ見ているだけでは、これから先も何も変わりません。
なぜ、頑張っている人が退職することになってしまうのか、言葉にされなかった本当の気持ちとはどんなことなのか。これから先の退職リスクを避けるために、まずはその理由を探ることから始めましょう。
報われない虚しさ
どれだけ患者さんのために、医院のためにと頑張っていても、誰にも気づいてもらえない。「ありがとう」の一言もない状況で、タスクだけが積み上がっていく。ミスをすれば注意されるのに、改善しても褒めてもらえることはほぼない…。
こんな状況が続けば、モチベーションが下がり、「私1人でこんなに頑張ってるなんて、ばかばかしい」と感じるのも当然かもしれませんね。
- 努力が実らない
- 認めてもらえない
- 感謝されない
そんな状況が続いた果てに心が折れてしまう人は、思った以上に多くいます。そしてある日…「またこれお願いね」と言われた時に、ふと考えてしまうのです。
「私は、便利な人になってしまっているかもしれない。私は何でも屋じゃない!」と。
仕事にやりがいを感じるためには、「存在が認められている」という実感が必要です。報われない日々の積み重ねが、「もう無理」と思わせる引き金になるのです。
歯科衛生士に対して、「患者さんにありがとうと感謝してもらっているから、それが歯科衛生士のモチベーションにつながっているだろう」…そんな誤解をしている院長は多いです。でも多くの歯科衛生士は、患者さんよりも院長や理事長、歯科医師に評価されたいと思っているもの。この歯科医師側と歯科衛生士側のギャップが、「がんばっても評価してもらえない」というモチベーションの低下につながってしまっているケースは多いのです。
相談できないのではなく「話しても仕方ない」
一緒に働いてきたスタッフが退職すると聞いて、「なんで、もっと早く言ってくれなかったんだろう?相談してくれればよかったのに…」と思うこと、ありますよね。
もしかしたら、相談しようと思ったこともあったかもしれません。でも…
- 院長やチーフ歯科衛生士がいつも忙しそうで話しかけにくい
- 相談しようとしても「今は無理だからあとにして」と流されてしまった
一度や二度そんな経験をすれば、「話しても意味がない」と思っても仕方ありません。特に、在籍期間が長いお局的な存在がいて、意見が通りづらい雰囲気がある職場では、その傾向はさらに強まります。
「どうせ何を言っても変わらないし、言ったら逆にやりづらくなるかもしれない」
そうやって空気を読みながら毎日過ごしていくことは、誰にとってもストレスです。そうして、誰にも相談せずにフェードアウトしていくことが、今の歯科クリニックの離職のリアルな声なのです。
人手不足の連鎖
「誰かが辞めると、残った人にしわ寄せがきて、また人が辞めていく」…これは、どこの歯科クリニックでもよくある構図ではないでしょうか。
1人辞めれば、その人の仕事を他のスタッフでカバーしなければなりません。人手不足を解消しようと新人を入れても、忙しくて教育の時間が取れず、現場がさらに混乱してしまうことも…。
最初は「なんとか乗り切ろう」と思っていたスタッフも、時間が経つにつれ疲れてくると「毎日とりあえず回ればいいや」という発想に変わってしまうものです。現時点を生き抜くことに精一杯になり、その後の未来のことまで考える余裕がなくなってしまいます。
そうして、チーム全体が疲弊していくのです。
- 毎日毎日、1日をやりぬくことで頭がいっぱい
- このままじゃいつか私も倒れてしまう
- 誰も助けてくれない…
- もう、私が先に辞めてしまった方が楽なのではないか
こんな思考回路でついに退職を決断するスタッフは、珍しくありません。人手不足は単なる数の問題ではなく、スタッフの心と体をむしばむ連鎖の始まりなのです。
退職は突然?離職のサインを見逃すな!
私は歯科コンサルをしているのですが、コンサル先の院長から人事関係の話で「突然辞めたいって言われてさー!」と言われることがよくあります。そんな院長の一言、あなたも聞いたことがあるかもしれません。
院長は「突然言われた」と言うけれど、本当に突然だったのでしょうか?
おそらくほとんどの場合、「辞める」と言い出す前に小さなサインがいくつも出ていたはずなんです。でもそのサインに、周囲が気づくことができなかった…それが、突然の退職の正体です。
突然辞めるスタッフは、限界ギリギリまで大丈夫そうな顔をして頑張っている場合が多いんです。見落とされがちなサインには、どんなものがあるでしょうか。
なんとなく元気がない
皆さんは毎日、スタッフと目を合わせて会話をしていますか?声のトーンや、笑顔の回数、報告連絡相談の頻度など、チェックポイントは多々あります。それらの小さな変化に気づくことが、限界を察知する第一歩です。
たとえば、前はいつも明るく話していたスタッフが、最近は目も合わせず必要最低限のやりとりしかしなくなってしまった。診療のアシスト中、器具の受け渡しが前より雑になった気がする。口腔内の観察記録のコメントが減った。などなど、毎日会話をして、様子を気にかけていなければ、気が付かないような些細なことかもしれません。
歯科衛生士は「患者さんには気を配るけど、自分のことは後回しにしがち」な職業だと思います。無理を重ねてしまう人ほど、限界の兆候を気づかれないように隠しているものです。
なんとなく元気がなさそうだな…と思ったその直感こそが、大事なヘルプサインかもしれないのです。
「大丈夫です」「なんでもやります」
一見、前向きなこの言葉。でも実は「これ以上、迷惑をかけたくない」「限界だけど、言い出せない」と無理をしているサインかもしれません。
忙しい歯科診療の現場では、スケーリングやTBIを日々回すだけでもかなりストレスのかかるもの。特にまじめで責任感の強い人ほど、なんでも引き受けてしまいがちです。たとえば午前中のスケーリング4人を終えて、すぐに午後のTBIが3人続いたとしても「大丈夫です」と笑顔で引き受ける…でも、準備ミスや細かいケア漏れが増え始めている。それは、限界が近い証拠かもしれません。
笑顔で「大丈夫です!」と言っていても、本当の気持ちは「頼りにしてもらってるし、引き受けるしかない…」と思っているかもしれません。抱え込みやすいタイプの人は、自分でも気づかないうちに、限界を迎えるまで引き受け続けてしまうことが多い傾向にあります。
こうなると負の連鎖の中で、業務負担が大きくなり、さらに追い詰めることにもつながります。「頑張る姿勢の裏にある無理」に周囲が気づけるかどうかが重要なんです。
「辞めます」からは戻れない
退職を申し出た時点で、すでに心は職場から離れてしまっていることがほとんどです。
「何かあったの?」「解決できることがあるかもしれないから話してみて?」解決を促そうと話を聞こうとしても、「いえ、大丈夫です」「もう決めたことなので」と言われるだけ…そんな状況も多いでしょう。退職と言われてからでは、もう遅いのです。
そうなる前に「言える空気」と「聞く姿勢」があったかどうか振り返ってみましょう。
サインに気づく力を育てよう
「日々の業務に手いっぱいで、限界のサインに気づけなかった…」と悔やむなら、「サインに気づく力」を育てていきましょう。それは特別なスキルではありません。日々のちょっとした関わり方や観察力で誰でも高められるものです。「突然の退職」を防ぐために、日常的にできることを考えてみましょう。
日々の雑談・観察での気づき
スタッフとの日々の雑談、それが実は、最大の早期発見ツールになることをご存じですか?
「昨日のランチおいしかった?」「週末どうだった?」そんな何気ない会話の中に、体調やメンタルの微妙な変化が滲むこともあります。
いつもならスタッフ同士で患者さんの話題などで賑わうのに、今日は口数が少ないし、表面的な話しかしない…そんな時は、診療中の様子を観察してみましょう。
- スケーリングの時間がいつもより長い
- 使用器具の種類が少ない、準備のミスが多い
- 患者さんへの声のかけかたがいつもと違う
これらは、業務中だからこそ気づけるポイントです。また、業務中以外でも、こんな観察ポイントがあります。
- 昼休みにひとりでスマホを見ている時間が増えた
- ロッカー室で他のスタッフとの雑談に入らなくなった
- 院内でのメモや共有ノートにコメントを書かなくなった
こういった変化は、声にならないサインかもしれません。「疲れてるのかな」で終わらせずに、この違和感を大事にしましょう。もちろん全てを気にしすぎる必要はありませんが、アンテナを張っておくことは意識してみてもいいと思います。
そして「最近、どう?」と気軽に声をかける姿勢が、安心感を生み出します。
1on1だけじゃない!自然な対話の積み重ね
声をかけるなら、「どうしたの?」「何かあった?」と探ろうとするよりも、「何か手伝えることある?」と話しかけることで、心を開いてくれることもあります。大切なのは、評価や指導ではなく、フラットな関係での対話。「見てくれている」と感じるだけでも、スタッフの心は少し軽くなるかもしれません。
最近の歯科クリニックでは、面談(1on1)の場を設けているところも少なくないでしょう。もちろん面談の場は重要ですが、それだけに頼ってはいけません。
- 面談で何を話していいかわからない
- 緊張して話せるかわからない
- むしろやりたくない
- 早く終わってほしい
かしこまった雰囲気の1on1ではなかなか本音を話せず、実はこんなふうに思っているスタッフも結構います。
それよりも、毎日の中にあるちょっとした会話や行動から得られる日常の気づきが、本音に近づくヒントになることも多いのです。大切なのは、構えて話す場よりも、自然に話せる関係性です。毎日のちょっとした対話の積み重ねが、チームの土台を強くしていきます。
まとめ
「新人が入っても育つ前に辞めてしまう」
「昨日まで普通に働いていたスタッフが、突然辞めたいと言ってきた」
そんな悩みを、今多くの歯科クリニックが抱えています。どんなに福利厚生を整えても、日々の中で「自分は大事にされていない」「頑張っても報われない」と感じれば、スタッフは静かに心を閉ざしていきます。突然退職と聞かされると、「言ってくれればよかったのに…」と思う気持ちもありますが、実は言えなかったのではなく、言える関係性ではなかったという背景があるのかもしれません。
「育てる前に辞めてしまう」現実に直面したとき、私たちにできることは、残ったスタッフとの関係性を見直すこと。サインに気づき、対話を続け、安心して本音が話せる空気を作っていくことです。
「ちゃんと見てもらえている」「必要とされている」と感じられる職場では、自然と離れにくい環境が育っていきます。それは、特別なスキルではなく、日々の声掛けや、何気ない雑談の中から生まれるものです。
「歯科衛生士の離職」後編では、より具体的な「辞めない職場へのプロセス」を解説します!