クリニックの歯科衛生士として、また歯科衛生士チームの一員として、もっと効率よく、楽しく仕事をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
「なんか最近、チームワークがうまくいかないな」
「ベテランと新人の差があって、どうやってチームビルディングしたらいいんだろう」
と思っている方はいませんか?
一般的にはチームを底上げするためには「目標設定」「コミュニケーション」などと言われますが、コンサルとして多くのクリニックと携わってきた中で、私が何よりも大切だと思っているのは「相手への興味と信頼」です。
今回は、チーフ歯科衛生士にとってチームビルディングに必要なあれこれについて深掘りしていきます。
相手に興味を持ってみよう
チーム力を底上げするには、相手に興味を持つことが最重要ポイント。
相手に興味を持って、ちょっと雑談をしてみましょう。日々、診療で顔を合わせるチーム員だからこそ、仕事以外のちょっとした話題を共有することで、距離が縮まり、信頼関係が深まります。
職場の人とプライベートな話をするなんて嫌だと思う方もいるかもしれません。特に若い新人スタッフの中には、嫌がる方が増えているように感じます。ですが、趣味や休日の過ごし方など、ほんの少しプライベートに触れることで距離が縮まるのは事実です。
とはいえ突然プライベートな話をするのは抵抗のある人もいますので、たとえば消毒室でちょっとした時間一緒になった時に「あーお腹減ったー」と言いながら好きな食べ物の話をしてみるとか、「今日すごい眠い…昨日遅くまで韓国ドラマ見すぎたよ〜」と好きなドラマの話をするとか、そんなちょっとしたことでいいので、さりげなく、小さく始めてみましょう。
また、チーム員の強みを理解して役割を決めていくことも信頼の構築につながります。「この作業はAさんが得意だから、お願いしよう」と適材適所で誰がどの仕事をするかを決めていくことで、効率が良くなり、お互いを尊重する空気が生まれます。
失敗したときにもミスを責めずに一緒に改善策を考える姿勢や、小さな努力を認めることも大切です。目に見えない部分に気づき、感謝を伝えることで「ちゃんとみてくれている」と実感でき、安心感が生まれます。
特に私が大事だと思っていることは、プロセスに着目することです。何事も成功したか、失敗したかという結果に目が行きがちですが、チーム員が
何を、どう考え、どんな方法で、どう行動したか
ここに注目してみると、人それぞれの良さがわかってくるものです。この考え方をするだけで、相手の考え方やなぜそこにいきついたのかがわかるようになってきます。そうなるともっと相手に興味が持てて、信頼につなげることができるでしょう。
お互いに興味を持つことができる工夫を、いくつかご紹介していきます。
感謝を伝える仕組み「Thanks card」
私がまずやってみてほしいのは、感謝を伝える仕組みづくりです。
ご存知の通り、クリニックはチームで診療をしています。多くの職種が関わる医療の現場では、スタッフ同士の連携は最も重要な要素の一つです。1人の患者さんが来院してからお会計後クリニックを出ていくまでには、さまざまなステップがあり、その一つ一つをスタッフの誰かが担っています。これは単なる役割分担だけではなく、作業それぞれに繋がりがあります。そのつながりの中で、お互いの行動を認め合い「感謝する気持ち」がチームとして不可欠だと思います。
感謝している ≠ 感謝を伝えている
と、私は考えています。心の中で感謝することはできていても、それをちゃんと相手に素直に伝えられているという人はどれくらいいるでしょうか。
伝える側にも、伝えるスキルが必要になります。そこで、簡単にできる感謝を伝えるツールとしてご紹介したいのが、「ThanksCard」。
100円ショップなどで購入できるカードに、自分と相手の名前、今日感謝したい内容を記載します。そしてそれを、クリニック内でさりげなく渡してもよいですし、たとえば個別のロッカーがあればロッカーの扉にマグネットで止めるという方法でもよいと思います。仕事が1日終わって、ロッカーにあるThanksCardを見ると、自分が今日1日やったことに対するまわりの評価がわかって嬉しいですし、次の日へのモチベーションアップにもなります。
口ではなかなか素直に言えないけど、文字なら伝えられるという方、多いと思います。文字にすることで温かみもプラスされて、一石二鳥です!Thanks card、ぜひやってみてくださいね。
他の方法でももちろんOKです。朝礼でメンバーに共有したり、消毒室などの患者さんから見えない場所に小さめのホワイトボードを置いて、スタッフが作業の合間に記入したりなど、「ありがとう」を表現できる場所を作ってみましょう。
始める時に最も重要なのは、チーフ歯科衛生士が率先して感謝を伝えるということです。スタッフの大半は、やり方がわからなかったり、まわりの様子を伺ったりして、最初から積極的に行動してくれる方は少ないと思っておいたほうが良いでしょう。チーフ歯科衛生士が積極的に感謝の気持ちを伝えることで、他のスタッフも行動しやすくなりますよ。
個別面談でアドバイスではなく共感を
個々のフォローアップのために、個別面談をしましょう。短い時間でいいので個別に話す時間を設け、まずは仕事の進捗を共有し、悩みを聞き出します。
チームのスタッフ全員と月に1回、15分〜30分を目安に実施します。面談を行うスタッフに、その時間は患者さんの予約を入れないようにして、時間を確保する必要があります。個別面談を行う上で、院長とも相談して、配慮してもらいましょう。
面談の時にチーム歯科衛生士が意識することは、聴く姿勢を大切にすること。悩みを聞いたら、それに対して解決策を示すのではなく、共感を大事にしましょう。
悩みを解決したいのか、ただ聞いて欲しいのかは、人それぞれです。話を聞いてもらって「そうだったんだ。それは困ったね」「そうだよね、大変だね」と共感してもらえるだけで気持ちがスッキリする場合もあります。
相手の話を全て聴いて、アドバイスしたくなってもグッと堪え、まずは共感することで、後々アドバイスしたり解決するための土台ができていくでしょう。アドバイスをするのは、意見を求められてからで十分です。
チームワークを深めるワークショップ
「ワークショップをやってみましょう!」と言われると構えてしまう方もいるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。簡単にいうとチームのミーティングです。
ミーティングで何を話し合うの?と言うと、結論なんでもいいのです。ただ、ここでなんでもいいと言ってしまうと抽象的になってしまうので…私のオススメをいくつかお伝えしますね。
- スタッフの性格診断テスト
- スタッフの価値観を知るためのワーク
- 最近あったおもしろい患者さん・困った患者さん共有
私があげた3つは一見雑談のようなものですが、ワークショップで重要なのは、1つのワードに対してスタッフみんなで取り組むことです。
性格診断テスト「16Personalities」
まず紹介したいのが、スタッフそれぞれの性格診断テストです。
16Personalitiesって知っていますか?性格診断であればどんなものでもよいのですが、私がよく使うのはこれです。チームのスタッフ全員でのミーティングの時間を使って、一斉に個々のスマホで行います。そして各自のテスト結果が出たら、ミーティング内で1人ずつ結果をシェアして、当たってるか当たっていないか、どこが当たっていてどこが当たっていないか、自分の診断結果に対する感想も伝えながらみんなと共有しましょう。
お互いの個性や特性を知ることができるため、相手への理解も深まります。相手がどんな人か、どんな考え方の人かを理解できていれば、もし診療内で何かトラブルがあった際も、なぜそのような問題が起きてしまったのか、受け止めやすくなるかもしれません。
価値観ワーク
2つ目にオススメなのが、価値観ワーク。スタッフの価値観を確かめるために2択で行うことが効果的です。たとえば…
A 週休3日で、20時終わり
or
B 週休2日で、17時終わり
どっちがいい?
このような2択で意見を言い合うことで、仕事に関するお互いの価値観を確認することができます。相手の価値観に触れることで、それぞれの優先順位の違いなど、新たな発見をすることができますよ。
他にも、クリニックでのワークに使えそうな2択を置いておきますね。
A 1日中アシスタント
or
B 1日中P処
A 休憩なしで2時間早く帰れる
or
B 休憩を2時間しっかりとりたい
A 立て続けに患者さんが来る
or
B 1人P処したら1人分休憩が入る
A スタッフが少人数
or
B スタッフが大人数
A 歯科医師が1人
or
B 歯科医師が複数人
個人的には、カラバリューカードというツールもおすすめです。ゲーム感覚で価値観の共有ができるので、とても盛り上がって楽しいですよ。
患者さんの話を共有する
患者さんの話は、チームのスタッフのことを知るためのいい話のネタになります。同じクリニック内で、顔の知っている患者さんの話題なので、スタッフ同士も話しやすいです。その中での発言や考え方を把握することで、「この人はこんなことにイライラするんだな」とか「この人、こういうふうに思うんだー」と相手のことを理解することができます。
私が学生で実習をしていた時の話ですが、配属された歯科口腔外科に、左下7番が家で抜けてしまったというご婦人が来院されました。歯科医師が口腔内を見ると、なんと抜けた部分に大根が埋まっていたのです!ご婦人にお聞きすると、「穴が空いてしまったから、何かで埋めないといけないと思った」とのこと。歯科医師も初めてのことに驚いていました。これは特に話題性のある話の例ですが、もっと些細なことでもOKです。患者さんの話で、おもしろかった出来事、困った出来事など、共有してみましょう。
当然ですが、患者さんがいる場所で、他の患者さんの話をするのはNGです!クレームにもつながりますし、信頼を失いますので絶対にやめましょう。患者さんが院内にいないミーティングの時間に話をするようにしましょう。
チーフ歯科衛生士としての心がけ
スタッフの「興味」と「信頼」を育むためには、チーフ歯科衛生士として日々の姿勢や行動を意識することも重要です!
オープンで発言しやすい環境づくり
信頼関係を強化するには、チーム内でオープンなコミュニケーションを促しましょう。チーフ自身が率直に自分の考えを皆に伝えることで、他のスタッフも発言しやすい雰囲気を作ることができます。
小さな疑問や不安も気軽に話せる場を設けることで早期にトラブルを回避できます。大切なのは、チーフ自身が失敗を隠さず共有する姿勢を見せること。スタッフも安心して意見を出しやすくなると思います。
チームを円滑にするためには、まずはスタッフからの発言や意見を引き出すことが第一歩です。まずはチーフ自ら意識して、相手にも声を出してもらうことから始めましょう。
平等・公平な判断でチームからの信頼アップ
信頼関係を作るには、誰に対しても平等で誠実に接することが欠かせません。えこひいきは、信頼を失います。スタッフの意見には偏りなく耳を傾け、問題が発生した時には、事実ベースで冷静に対応する姿勢が求められます。
問題が起きた時に気をつけてほしいのは、感情を入れ込まないこと。
例えば、患者さんの治療が終了した後に、器材の片付けをしていなかったという問題が発生したとします。片付けは誰がやるべきだったのか、担当ができない場合に周りのスタッフに声かけはしたのか…といった課題が出てきた時、感情や事前情報があるとこんなふうに考えてしまうかもしれません。
Aさんは、いつもしっかり片付けをしてくれているから多分違うだろう。比べてBさんは、いつも出したものを出しっぱなしにするところがある。きっと今回も、Bさんじゃないかな?
このように、本当はAさんかもしれないのに、Bさんだろうと決めつけが入ってしまいます。
感情や事前の情報が入ると、客観的に物事を見ることができなくなり、判断が鈍ってしまいます。そうなると平等な課題解決ができなくなります。決めつけず、その場の事実を冷静にみて判断する必要があります。
また、評価においても公平さはとても重要です。特別なスタッフだけを褒めるのではなく、それぞれの貢献度をしっかり見て、公平に認めることを意識しましょう。
以前、私がクリニックでの面談を担当していた時のことです。ある日の朝礼時、院長がある歯科衛生士さんの行動を、みんなの前で褒めていました。朝礼後、1人ずつ順番に私との面談をやっていったのですが、何人かの歯科衛生士さんから「sakuraさん、院長は私のことはどう思ってますか?」と聞かれたんです。
自分がどんなふうに評価されているかということは、誰しも気になることですよね。頑張りを皆の前で褒めることは良いことでもあるのですが、やはり特定のスタッフだけを褒めてしまうと、周りのスタッフが「私はどうなのかな」と気になってしまいます。「公平に褒める」ということの重要さを実感した出来事でした。
自分の機嫌をコントロールする
チーフ歯科衛生士自身がいい気分で仕事ができることは、チームの雰囲気にも大きく影響します。逆にチーフ歯科衛生士が不機嫌な態度をとると、スタッフは萎縮し、コミュニケーションが減少してしまいます。
そのため、チーフは特に、日頃から自分自身の機嫌を意識的に整えることが大切なんです。例えば、業務でストレスが溜まった時は短い休憩を取ったり、気分転換を心がけることで、冷静な穏やかな姿勢を保てます。誰しも気持ちに余裕がないと感情的になりやすいので、意識的に余裕のある行動をとり、笑顔で接することでチームに安心感を与えることができるでしょう。
日頃から出来ることとして私がオススメしたいのは、自己分析です。
- 自分はどんなことをしている時に、機嫌がいいのか
- 自分はどんなことに対して、イライラするのか
この2つを理解しておくと、何か嫌な出来事があったときでも、どんなことをすれば機嫌が良くなるかがわかるので、自分の機嫌をコントロールできるようになります。コントロールできれば、気持ちの回復に時間がかからなくなりますし、自分自身もいつも上機嫌でいられるので素晴らしいことですよね。
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まとめ
チーム力を底上げするためには、「相手への興味と信頼」が欠かせません。日々のコミュニケーションを通じてお互いを知り、信頼関係を深めることで、チームはより強固になります。
チーフ歯科衛生士はチームの手本となる存在です。常に誠実で公平な対応を心がけることで、メンバーの信頼とモチベーションは高まります。自ら積極的に行動し、誠実で前向きな背中を見せることで、スタッフに良い影響を与えます。「相手への興味と信頼」を大切にしたチーム作りを実践し、より良い職場環境を築いていきましょう。
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