「大学病院での経験って、大学病院を辞めたらもう役に立たないのかな?」
大学病院という特殊な環境で長年働いていたり、大学病院での勤務経験しかない方は、今後の働き方を考えた時、そんな不安を感じるかもしれません。
自分の経験がどんなふうに将来につながっていくのか、ふと不安になる瞬間ってありますよね。私も実際、そうでした。
私のDHとしての経歴は、新卒で一般歯科に勤めたところから始まり、その後大学病院へ転職。口腔ケア外来に配属され、一般歯科とはまた違う専門的な症例を経験しました。そして、出産を機に臨床を離れ、現在は歯科医院のブログ執筆やSNS運用サポート、採用支援などの在宅ワークをしています。
一見バラバラに見えるかもしれませんが、振り返ってみると一般歯科で学んだことも、大学病院での経験も、すべてが今の働き方の土台になっています。「この経験は無駄だったな」と思う瞬間がひとつもありません。
この記事では、私自身の経験をもとに
- 大学病院勤務で得られたスキルと気づき
- その経験を今、在宅でどう活かしているか
をまとめていきます。「こういう働き方もあるんだな」と気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
大学病院勤務で得られた4つのスキル
一般歯科では経験しにくい症例、厳しい感染管理、教育の場としての緊張感。毎日が新しい学びの連続でした。
でもその一つひとつが、確実に自分の力になっていったと感じています。大学病院ならではの環境は、歯科衛生士としての視野と技術を大きく広げてくれました。
- 幅広い症例に対応する力
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徹底した感染管理の習慣
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教育を通じて得た「伝える力」
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口腔内だけではなく全身状態を診る力
大学病院での経験で得られたスキルを、大きく4つに分けてお伝えします。
幅広い症例に対応する力
大学病院で働き始めてまず感じたのは、「ここまでいろんな背景を持つ患者さんが来るんだ…!」という驚きでした。
もちろん一般歯科でも幅広い年代の方を診ますが、大学病院は「幅広い」のレベルがちょっと違います。たとえば、
- 30代でも重度の歯周病の方
- 腫瘍の治療後で粘膜がとてもデリケートな方
- 顎補綴の装置を使って生活している方
- 睡眠時無呼吸の管理が必要な方
- 神経疾患があって口が開けづらい方
本当に毎日「今日も新しい学びがあった」と思うくらい、さまざまなケースに出会いました。
最初から順調だったわけではなく、「こんな症例、どう対応すればいいんの?」と戸惑う場面もたくさんありました。
学生の頃に教科書で見ていたような症例に、実際の臨床で毎日のように向き合うので、「こういうケースではどうしたらいいんだろう?」とその都度考える習慣が自然と身についていきました。
メンテナンスという仕事自体はどこでも同じですが、患者さんの状態によって何をどの順番で、どれくらいの圧でやるのかが大きく変わります。だからこそ、大学病院で働くと自然と「この人にはこのやり方が合ってるかな?」「今日はいつもより炎症強そうだから、無理せずここまでにしよう」と、臨機応変に判断する力が身についてきます。
また、問診や会話の中から、その日の体調や背景を読み取る力も鍛えられました。
「今日は薬変わったかな?」
「最近、噛み合わせの力が強くなってきたかも?」
そんなちょっとした変化に気づける自分になったのは、大学病院での環境があったからだと思っています。
徹底した感染管理の習慣
大学病院で働いていて強く感じたのは、「感染管理のレベルが圧倒的に高い」ということです。
もちろん一般歯科でも滅菌や消毒はしっかり行われていますが、大学病院は教育機関ということもあり、とにかく基準が細かく、そして徹底しています。
ディスポーザブル用品は使い方も捨て方もルール化されていて、慣れるまでは「こんなところまで気にするんだ…!」と驚くほどでした。滅菌期限の管理もすごく厳しく、使用しなくても滅菌後半年を過ぎた器具は必ず再滅菌。滅菌バッグの向きや並べ方、保管の仕方までしっかり決まっています。PPEの着用も、ガウン・ヘッドキャップ・フェイスシールドなどフル装備で行うことが多く、最初は「ここまでやるのか…」と思うほど細かい指導がありました。
でも続けていると、それが当たり前の感覚に変わっていきます。
ICT(感染対策チーム)の巡回やチェックもあり、改善が必要な点はすぐに共有されます。こうした環境にいると、「感染管理=特別なこと」ではなく「医療者としての基本そのもの」という意識に変わっていきました。
大学病院では、一人の患者さんが複数の科を受診していることがよくあります。たとえば、保存科で治療を受けながら、補綴科で装置を作っていて、さらに口腔ケア外来でメンテナンス…というようなケースです。
私たち歯科衛生士は、その中で患者さんの口腔内を整え、治療の土台を作る役割を担っています。
さらに患者さんの背景には歯科だけでなく医科での治療が関わっていることも多く、糖尿病、心疾患、自己免疫疾患、化学療法中、抗凝固薬を服薬中など、全身状態を考慮しながら進めないといけません。
医科の先生と対診書でやり取りすることも多いです。その都度、「この処置は今日やっていいのか?」「薬はいつから変わったのか?」「何に注意して口腔ケアに入ればいいのか?」を判断します。
大学病院にいると、「お口だけ診ればいい」という考えは確実になくなります。患者さんの全身を診て、その背景に合わせて安全にケアすることが、歯科衛生士の大切な役割だと強く感じます。
一般歯科と大学病院、それぞれの現場での気づき
一般歯科と大学病院では、同じDHという仕事でありながら、日々の働き方がまったく違います。どちらの現場にもそこでしか得られない気づきがあって、どちらの経験も自分の力になっていると感じています。
2つの現場を経験したからこそ見えてきたことを、診療スタイル・患者層・求められる柔軟性、の3つの視点から振り返ってみます。
診療スタイルの違い
一般歯科で働いていた頃は、患者さんの生活の変化を感じながら、一人ひとりに寄り添って診療するのが好きでした。「最近甘いもの控えてるんですよ」「引っ越して生活が変わって…」など、こうした会話からその人の背景がすごく見えてきて、それがケアのヒントにもなります。
一般歯科は「かかりつけ医」として、生活に寄り添う温かい存在です。 患者さんも安心して悩みを話してくれたり、家族で通ってくださったりして、信頼関係が深まりやすい環境でした。
一方、大学病院では専門領域に分かれていて、役割がはっきりしています。
歯周治療のオペ前のSRPを任されたり、補綴前のPCR値の改善を依頼されたり、一人の患者さんをすべて診るのではなく「自分の担当領域で最高のパフォーマンスを発揮する」という働き方です。
患者さんへの関わり方が大きく変わってきますが、どちらも魅力があって、どちらも歯科衛生士として私を成長させてくれた経験です。
患者層の違い
一般歯科に来られる患者さんは、むし歯治療や定期検診、ホワイトニング、義歯の調整など毎日の生活に直結するニーズを持っている方が多いです。年齢層も幅広く、小児から高齢の方まで来られるので、ライフスタイルに合わせた提案が求められます。
大学病院は、一般歯科ではなかなか出会わないような患者さんが多く来られます。治療歴が長かったり、服薬が多かったり、全身疾患との関係が深かったり…。「お口の問題=全身の問題」となるケースがとても多いです。
一般歯科は生活を支える医療、大学病院は医科治療の一部としての医療。
全く違うように見えますが、どちらも口腔の健康を守るという目標は共通。2つの現場を経験したことで、私はより広い視点で患者さんを見られるようになりました。
臨床現場で求められる柔軟性の違い
一般歯科では1日の予約枠がぎっしり埋まり、30分の中で効率よく、かつ丁寧に処置を進めることが求められました。スピード感と丁寧さを両立させるのは簡単ではありませんが、このバランスこそ一般歯科ならではのスキルだと思います。
大学病院では、また違った意味で柔軟性が必要になります。診療科の予定が変わったり、学生実習で処置が長引いたり、他科受診の予定で患者さんが遅れたり…。こちらの予定通りに進むとは限らず、その日の状況に合わせて動きを調整する力が求められます。
2つの現場で働いたことで、私は「時間に合わせて動く力」と「状況に合わせて動く力」の両方が身につきました。これは、今の在宅ワークでも大きな強みになっています。





