最近かなり需要が増していると言われる、訪問歯科衛生士。
「興味はあるけど、1日の中でどんなふうに訪問していくのか、実際に働くイメージが湧かなくて不安」
という人も多いのではないでしょうか。
訪問診療は、1件ごとに移動して、ご自宅や施設という「患者さまの生活の場」にお邪魔してケアを行う、独特のリズムと難しさがあります。天候や交通状況に左右されたり、その日の患者さまの体調に合わせて臨機応変に対応したり、マニュアル通りにはいかない場面も少なくありません。
実際にやってみないと、わからないことはたくさんあります。
この記事では、そうした不安や疑問に少しでもお応えできるよう、訪問歯科衛生士として働く私が、1日の流れに沿って、仕事内容や訪問件数、持ち物まで具体的にご紹介していきます!
これから訪問歯科衛生士を目指す方の、リアルなイメージづくりの一助になれば嬉しいです。
訪問歯科衛生士の1日の流れ
それでは早速、私のとある1日に密着する形で、訪問歯科衛生士の仕事の流れを詳しくご紹介していきます。
同行しているような感覚で読んでいただけるよう、時間の流れに沿ってまとめましたので、リアルな働き方をイメージしていただければと思います。

9:00 出勤・訪問準備
私の勤務先では9時に出勤し、まずはその日の訪問スケジュールを確認します。
- カルテの確認
- 診療内容を歯科医師やスタッフと共有
- 必要な器材の準備
患者さんごとの確認は必要ですが、基本治療や口腔ケアで必要なものの準備はだいたい同じ。個別で気をつけるのは、技工物を忘れないようにするくらいです。
ポータブルユニットや口腔ケア用品、感染対策用品などを準備し終えたら、車にのせて医院を出発します。
個人的に訪問歯科の魅力の1つは、9時から診療ではなく、「9時から準備」という点です!もちろん医院によって異なりますが…「朝に少し余裕を持って出勤できる」「慌ただしく診療が始まらない」という点は、実際に働いていて感じる訪問歯科ならではのメリットだと思います。
10:00 午前の訪問
9時半頃に医院を出発し、最初の訪問先へ向かいます。訪問先までの移動時間はエリアによって異なりますが、この日は約30分で到着しました。
10時から、1人目の患者さまの診療を開始。
- 専門的口腔ケア
- 口腔衛生指導
- 義歯の清掃・管理
などを行います。必要に応じて、歯科医師の診療補助や、ご家族・介護スタッフへのケア方法の説明を行うこともあります。
診療が終わると、車内で次の訪問先を確認しながら移動します。訪問歯科は、診療だけでなく移動時間も仕事の一部です。交通状況や駐車場所によっては予定通りに進まないこともあるため、時間に余裕を持ったスケジュール管理が欠かせません。
2軒目は、ご夫婦で訪問歯科を利用されている患者さまのお宅へ伺いました。このように、同じご家庭で続けて診療を行うこともあり、1回の訪問で複数名の口腔ケアを担当するケースもあります。
患者さま一人ひとり、お口の状態や全身状態、生活環境は異なります。そのため、毎回同じことをするのではなく、その日の体調や様子に合わせてケアの内容を調整していくことが大切です。
月に数回訪問する患者さんは特に、「毎回同じ口腔ケアだと飽きるかな」という私の思いもあり、
- 口腔内マッサージをする
- 体操を取り入れる
- 口腔ケア用品を変えてみる
など、いろいろ工夫をしながら口腔ケアを行なっております。
12:00 お昼休憩
午前の訪問を終えたら、お昼休憩です。この日はコンビニへ立ち寄り、車内で昼食をとりました。
訪問歯科では、医院へ戻って休憩するとは限りません。訪問先の場所や午後のスケジュールによっては、移動途中や訪問先近くのコンビニの駐車場で休憩を済ませることも多くあります。
つまり、同行時だと、先生と一緒に車内で休憩です。先生と2人、、、最初は気にして緊張していましたが、今ではイヤホンをしてお昼寝ができるくらい気楽に過ごしております(笑)
訪問歯科をする上で、安全に訪問を続けるためには、しっかり食事や水分補給をすること、そして体力回復・温存も大切です。夏場は熱中症対策、冬場は防寒対策をしながら体調管理を行い、午後の訪問に備えます。
訪問歯科は移動が多い仕事だからこそ、こうした休憩時間も上手に活用しながら1日を過ごしています。
訪問歯科での難点は、お昼ご飯後の歯磨きが難しいこと、、、。コンビニで歯磨きするわけにもいかないので、私はマウスウォッシュを持ち歩いています。少しでもスッキリさせたい!歯科衛生士の職業病です。
13:00 午後の訪問
この日は13:10から4人目の患者さまを訪問し、その後、14時に5人目、15時10分に6人目と、在宅訪問が続きました。
午前中と同様に、専門的口腔ケアや義歯の清掃・管理、口腔機能の確認などを行います。
患者さまやご家族から「食事が食べにくくなった」「入れ歯が痛い」といった相談を受けることも多く、先生と情報共有しながら対応していきます。
歯科衛生士の単独訪問の場合は、義歯については衛生士のみで対応することはできません。必要に応じて、先生に確認をとりましょう。
→歯科衛生士の単独訪問についてくわしく読む
16時からは施設へ訪問し、2名の患者さまの口腔ケアをしました。
施設では同じ建物内で複数の患者さまを担当できるため、在宅訪問に比べて移動時間を短縮できる一方、限られた時間の中で効率よく診療を進めることが求められます。施設だと、17時くらいから夕食になるため、それまでに終わらせるというミッションも課せられます。
17:30 急患対応
この日の最後は、17:30からの急患対応でした。
急患対応の前にはコンビニへ立ち寄り、甘いものを食べてエネルギー補給!(先生が奢ってくださいました)体力だけでなく集中力も必要な仕事だからこそ、短時間でもリフレッシュしながら、最後の訪問に向かいました。
訪問歯科では、義歯の破損や、歯の痛み、急に食事ができなくなったなど、「今すぐ診てほしい」という急な依頼が入ることは決して珍しくありません。
予定どおりに終わらない日もありますが、私はこの急患対応こそ、訪問歯科の大きな意義の一つだと感じています。通院が難しい患者さまにとって、お口のトラブルはそのまま「食べられない」「話しづらい」「生活の質が下がる」ことにつながります。だからこそ、できるだけ早く駆けつけて対応することに、大きな意味があります。
※急患対応に関しては、私は最初からOKな条件で契約をしております。こういう細かい契約条件のすり合わせは、契約時に確認しておきましょう。
18:50 帰院後にやること
すべての訪問を終えると、18時50分頃に医院へ戻りました。
帰院後は、使用した器材を軽く洗い、消毒液につけておきます。
器具の洗浄・滅菌は、翌日にクリーンスタッフさんがやってくださいます。器具の片付けをしなくていいってだけで、仕事量が大きく変わります。とっても楽ちんです!
その後は、補充をしておきます。「今日使用したものは、その日のうちに補充をしておく」これを徹底することで、持っていく荷物の中身が常に同じになります。翌朝の確認も少なくて済むのでおすすめの方法です!
そして、カルテの記載や診療内容の入力を行います。患者さまのお口の状態だけでなく、食事の様子や気になった変化、ご家族や介護スタッフから伺った内容なども記録しておきます。訪問歯科では、患者さまの生活背景まで把握することが大切です。その日の小さな変化が、次回の診療や今後の治療方針につながることも少なくありません。
予約の確認作業も忘れてはいけません。院内にある予約表に、予約を取られた患者さまの情報を記入していきます。これを忘れると、予約当日に「今日じゃなかったですか?」と患者さまからお電話いただくことになります…。忘れずに予約確認をしておきましょう。
すべての業務が終わると、19:30頃に退勤!本日の勤務終了です。
この日は急患対応があったので、その記録をするのに時間がかかり、帰院後1時間かかった稀なケースでした。
記録は移動中や訪問中にやっていることも多く、いつもなら15〜30分くらいで終わります。
訪問歯科衛生士の持ち物と服装
訪問歯科では、診療に必要な器材は医院が準備してくれることがほとんどです。ただ、車で1日中移動したり、屋外を歩いたりする訪問歯科だからこそ、「あると便利な私物」がたくさんあります。
ここでは、私の訪問時の持ち物と服装をご紹介します。
- 飲み物(水分補給用)
- 日焼け止め
- 冷感パーカー(夏場)
- 膝掛け(冬場や車内用)
- サングラス(運転時)
- ハンドクリーム
- リップクリーム
- 充電器
- 常備薬
- 小腹が空いた時用のお菓子
- 書き物をするためのバインダーとボールペン
訪問歯科は、想像以上に車で移動する時間が長い仕事です。そのため、季節に合わせた暑さ・寒さ対策は欠かせません。夏は日差しの中を歩くことも多いため、日焼け止めや冷感パーカーがあると快適です。反対に冬は車内が冷えやすく、患者さまのお宅も室温がさまざまなので、膝掛けがあると移動中に体を温められます。
また、午後になると集中力が切れてくることもあるため、私は個包装のお菓子を忍ばせています。車内に置いておくため、チョコレートやアメは溶けることもあるので要注意です。
訪問歯科では患者さまのご自宅へ伺うため、清潔感のある身だしなみを心がけることは大切ですが、ある程度汚れてもいい服装にしておくことです。私の仕事着は、UNIQLOやGUの安価なもので揃えています。医院によって制服は異なりますが、訪問歯科では「診療しやすさ」と「移動のしやすさ」の両方を意識した服装がおすすめです。
あまりにも暑い日には、上のポロシャツだけ着替えを持っていくこともあります。汗臭いのも、汗かいた服で1日いるのも嫌なので、個人的にはお昼に着替えています。
こういうところは、涼しい院内で汗をかかずに仕事ができる環境の方がいいな〜と思うこともあります。
訪問歯科衛生士は1日に何件訪問する?
「訪問歯科衛生士は1日に何件くらい回るの?」
訪問診療を目指す方から、最もよくされる質問のひとつです。
結論からお伝えすると、訪問件数は「在宅」か「施設」かによって大きく異なります。同じ訪問歯科衛生士でも、担当するエリアや医院の方針によって1日の動き方はかなり変わってくるため、ここでは目安となる件数と、その背景をご紹介します。
在宅訪問の場合
ご自宅に一軒一軒お伺いする在宅訪問の場合、1日あたり5〜8件程度を回ることが多いです。
1件あたりの診療時間は30〜60分程度が目安です。口腔ケアだけでなく、ブラッシング指導やご家族への申し送りなども含まれるため、患者さまの状態によって時間には幅が出ます。
車やバイクで移動しながら患者さま宅を回るため、駐車場探しや渋滞などで時間を取られることも珍しくありません。この移動時間をどう見積もるかが、1日にこなせる件数に直結してきます。
施設訪問の場合
特別養護老人ホームやグループホームなど、施設に訪問する場合は事情が異なります。同じ建物内に複数の患者さまがいらっしゃるため、多ければ1日で10〜20名程度に対応できることもあります。
1名あたりの診療時間は10〜20分程度とやや短めですが、人数が多い分、口腔ケアの技術や段取りの良さが求められます。
ワンフロアや同じ建物内で完結することが多く、在宅訪問に比べて移動のロスが少ないのが特徴です。その分、限られた時間で多くの患者さまに対応することになります。
上記はあくまで目安です。訪問件数は、医院の方針や地域特性、担当エリアの広さによって大きく異なります。都市部と郊外では移動時間の感覚も違いますし、重度の患者さまが多いか、比較的お元気な方が多いかによっても、1件にかける時間は変わってきます。就職・転職先を検討する際は、求人票に書かれた件数だけでなく、実際にどんなエリア・患者層を担当するのかを確認しておくと安心です。
訪問歯科衛生士に向いている人
私が実際に働いていて感じるのは、訪問歯科は技術力だけでなく、人と関わることが好きな方に向いている仕事だということです。
例えば、患者さまやご家族と会話をすることが好きな方や、一人ひとりとじっくり向き合いたい方には、大きなやりがいを感じられると思います。また、歯科医師だけでなく、介護職や看護師、ケアマネジャーなど多職種と連携する機会も多いため、チーム医療に興味がある方にもおすすめです。
一方で訪問歯科は、毎日決まった流れで仕事が進むわけではありません。交通状況によって到着時間が前後したり、患者さまの体調によって予定が変更になったり、急患対応が入ったりすることもあります。そのため、状況に応じて柔軟に対応する力も求められます。
だからと言って「自分には向いていないかも…」と最初から諦める必要はないと思っています。私も最初からすべてができたわけではなく、経験を重ねる中で対応力や知識が身についていきました。
訪問歯科の魅力は、何より患者さまの生活に深く関われることです。
「入れ歯が痛くなくなって、ご飯がおいしく食べられたよ」
「来てくれて安心した」
「ありがとう」
そんな何気ない一言をいただけるたびに、患者さんを支える仕事ができていることを実感します。
患者さまが歯科医院へ通うのではなく、私たちが患者さまのもとへ伺う。その一歩が患者さまの生活の質(QOL)を支えることにつながる。それが、訪問歯科衛生士という仕事です。
人との関わりを大切にしたい方、患者さまの生活に寄り添う歯科医療を実践したい方にとって、訪問歯科はきっと大きなやりがいを感じられる働き方だと思います。
まとめ
訪問歯科衛生士の仕事は、1日の流れや訪問件数、移動の多さ、持ち物などを見ると、大変そうと感じる方もいるかもしれません。しかし、患者さまやご家族とじっくり関わり、「食べられるようになった」「来てくれて助かった」という言葉を直接いただける機会も多くあります。
口腔ケアを行うだけでなく、「食べる・話す・笑う」という当たり前の日常を守ることができる仕事なので、外来では感じられないやりがいを感じながら仕事をすることができます。
「訪問歯科に挑戦してみたい」「もっと詳しく知りたい」と感じた方は、ぜひ見学や同行訪問に参加してみてください。実際の現場を体感することで、訪問歯科ならではの魅力ややりがいを、より深く感じられると思います。





